約 431,392 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/437.html
603 名前:3巻 第4章 桐乃視点「1/2」【SS】[sage] 投稿日:2011/03/19(土) 21 48 09.16 ID 2KOwm08v0 [9/10] 扉を開けたら,怪訝そうな顔をした兄貴が立っていた。 「……どうかしたのか?」 「……なんでもない」 しかし,兄貴は引き下がろうとしない。 「なんでもなくはねーだろバカ。――なんか心配事でもあんなら言ってみ。 で,話したらさっさと寝ろ。早く治して部活やら仕事に出てーんだろうがよ」 「……どうしたの……あんた。珍しく優しいじゃん」 いつもは――――あんなに嫌そうな顔するのに。 「ハッ。さっさと治ってもらわねーと,俺に伝染るだろうが」 そう言ってふいっとそっぽを向いてしまう。 その姿が可愛らしくて,思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。 ……素直じゃないよね,こいつもさ。 「ばかじゃん。……ふん,まあいいや,入って。あんたごときじゃ, どうにもならないとは思うけど。……聞きたいなら,話してあげる」 604 名前:3巻 第4章 桐乃視点「2/2」【SS】[sage] 投稿日:2011/03/19(土) 21 48 57.03 ID 2KOwm08v0 [10/10] 兄貴が出ていった後,あたしはそのままベッドに倒れ込む。 「フ――――」 あたしだけなら,まだいい。 自分で書いた小説がほめられて,勝手に舞い上がって,だまされた。 それだけなら,まだいい。 でも――――今回はそうじゃない。 いつからだったか,あたしたち兄妹は互いを無視し合ってきた。 あいつはあたしの事が嫌いみたいだし,あたしだってあいつの事なんか嫌いだ。 これからだってその関係は変わらない……ずっとそう思ってきた。 でも,うっかりエロゲーを落として,それをあいつに見つけられて, それをきっかけにあいつに人生相談を持ちかけて…… あたしたちの関係は,少しずつ変わっていった。 今回の取材だって,今までのあたしたちだったらとても考えられなかったことだ。 だからあたしは,一生懸命書いた。今までの想いを込めて,この小説を書いた。 なのに―――― なのに……それを踏みにじられた! あいつと一緒に作りあげたものを,それに込めた想いを,無かったことにされた! 悔しくて,悔しくて,悔しくて…………ッ!! ――――でも,どうにもならなくて。 「……でも,なんでだろ」 あいつの顔見たら,そんなことはどうでもいいとも思えてきてしまう。 勉強や部活を頑張って,アニメやゲームに夢中になって,学校やオタクの友達と一緒に遊んで…… あたしはそんな自分が好きだし,そんな毎日が愛しくてたまらない。 そして今は,そんなあたしを守ってくれる人がいる。 あいつがそばに居てくれるならあたしは…… 「……ハッ,何考えちゃってんだか」 気付いたら,あたしはベッドに顔をうずめて泣いていた。 熱で頭がおかしくなったのかもしれない。あんなに泣いたのに,どんどん涙が溢れてくる。 兄貴に聞こえないように,あたしは声を押し殺して泣き続けた。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/522.html
373 名前:飛び入り王子様【SS】[sage] 投稿日:2011/04/04(月) 23 54 42.99 ID Pjah/H+UO [2/2] 296から連想 高坂家秘蔵のビデオライブラリーより 「今日は桐乃のおゆうぎ会に来ています。桐乃のクラスは『白雪姫』の劇をやります。 桐乃が、なんとびっくり、主役の白雪姫をやってます」 「お母さん、桐乃はとっても可愛いんだから白雪姫やるに決まってるよ!」 「あらあら、うちの王子様からお叱りの言葉が。 さて、そろそろはじまるみたい」 舞台の幕が開いて、劇が始まる。 「うわあ、桐乃のお姫様、かわいいな」 「京介、もうちょっと静かにしなさい♪」 劇は終盤、魔女の毒りんごによって眠りについた白雪姫は 王子様のキスで目をさます……はずなのだが…… 「どうしたのかしら、桐乃が起きないわね」 「桐乃に何かあったのかなあ」 王子様役の子がキスの演技をしたのだが、白雪姫の桐乃はいっこうに起き上がらない。 ざわつき始める場内。そこで園長先生が舞台に登場。 「皆様、どうぞお静かに……白雪姫さん。王子様がキスしたんだから起きないと駄目じゃないの?」 「…きりの、じゃなかった。しらゆきひめは、本もののおうじさまのキスじゃないとおきれないの」 「あらまあ。それじゃあ白雪姫さん、本ものの王子様はどこにいますか?」 「あたしのおうじさまは、今日おかあさんといっしょにここにきてます」 「ちょ、桐乃っ。まったくうちのお姫様ときたら…」 なんだかんだ言いながらも、佳乃の口調はこのハプニングを楽しんでるように聞こえる 「ええ、では白雪姫の本ものの王子様、来てくれますか?でないと劇が終われません」 場内が笑いに包まれる中、舞台に向けて駆け出す京介。 「王子様が来てくれました。それでは王子様、あとは頼みましたよ」 そう言うと園長先生は舞台から降りる。 「駄目じゃないか桐乃。ちゃんとおゆうぎやらないと」 「ごめんなさい。でも、きりのは、おにいちゃんのキスじゃないとおきないもん」 「じゃあ、キスするから、あとはちゃんとやるんだぞ」 「うん」 チュッ♪ 「…これで何事もなかったのように、というのは流石に無理があるけど とにかく白雪姫の劇はなんとか終わりを迎えました。めでたしめでたし」 ※※※ 「ほんと、バカップルにも程があるわよね、あんたたちは。 って、あら?二人ともいない」 現代の高坂家。リビングで母子3人で懐かしのビデオを見てたはずなのだが、 兄妹はいつのまにか姿を消していた。 「最後にとっておきを用意したんだけど、流石にこれは毒が強すぎたかしら♪」 (やれやれ、お袋ときたら、なんてモノ見せてくれるんだ) 京介が自室に戻ると、そこにはベッドに横たわり目をつむる桐乃の姿が (これって、おい……) 「まったく、しょうがない奴だよ。うちの姫さまは」 京介はそう言うと部屋の扉を閉めた。 えっ、この後どうなったかって?言わせんな恥ずかしい -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/878.html
550 :怪談【SS】:2011/06/29(水) 21 33 32.35 ID zTpaRr+/O 暑い中思いついた不思議でおかしな話 老人「昔むかし、千葉県に高坂家という家族が住んでおった。 ある時から、この家に不思議なことが起こるようになったのじゃ。兄のパンツが夜な夜な行方不明になるのじゃ」 女孫「それって只の犯罪じゃないの?」 男孫「でも犯罪者なら妹のパンツ盗むんじゃないか?男物のを盗むなんて変」 女孫「もしかしたら兄の友達の男の子が盗んでるかもよ…うぇへへへへ」 老人「(孫がせなちーに呪われるような事はした覚えがないんじゃがなあ) ともかく、兄はこの謎を解くために必死になった。そして、ついに、犯人を突き止めた」 女孫「やっぱり兄の友人が…」 老人「ハウス!! ごほん、犯人はなんと『妖怪くんかたん』じゃった」 男孫「なにその変な名前」 老人「正確には、妹にくんかたんが取付いておったのじゃ。 パンツをくんかくんかと嗅ぐところから名前が着いたと言われておる………」 ※※※ 京介「桐乃、いい加減正気になってくれよ」 桐乃「うっさい黙れ!あんたには用はない。あたしが相手をするのは兄パンだけなの!!はぁ~クンカクンカ」 京介「頼むよ桐乃、頼むから目を覚ましてくれ」 桐乃「あんたが、あんたが悪いんだからね!もう…兄貴なんて知ったことじゃない!! それもこれも、みんなみんな京介のせい、京介の馬鹿……」 京介「そんなことにはさせない。俺が何とかしてやる!!」 ※※※ 女孫「ねえお爺ちゃん」 老人「なんじゃ?」 女孫「どこが怖い話なの?」 老人「不思議な話だから怪談でよいじゃろ。では続けよう」 ※※※ 京介「これを見ろ、桐乃!!」 桐乃「きゃあッ! な、なんてモノ見せんのよこのエッチ!!」 京介「やっと正気になったようだな、桐乃」 桐乃「違うし、この変態!!」 京介「でも、お前の視線はこれに釘付けだぜ」 桐乃「そんなこと言わないでよ……京介のイジワル」 京介「なあ桐乃、これを……お前に……いいか?」 桐乃「もぅ…シスコン馬鹿兄貴……いいよ京介、 やさしくしてね……」 ※※※ 老人「こうして妖怪くんかたんは消え去り、兄妹は末長く幸せに暮らしましたとさ めでたしめでたし」 女孫「待ってよ!!全然意味がわかんないし」 男孫「だいたい、京介は桐乃に何を見せたかがわかんないよ!!」 老人「…リヴァイアサンじゃ…」 男孫「何それ?」 老人「お前が大きくなったら教えてやろう。今知ると、あやせの呪いが降り掛かるから駄目じゃ」 『ドンドン、ドンドン!』 老人「ほら、あやせが出たぞ、早く寝るんじゃ…」 ※※※ 深夜の屋外 天使「人のことを妖怪呼ばわりとはいい度胸ですね」 老人「まあ、それはそうと、高坂兄妹はお元気かね?」 天使「はい、それはそれは幸せな日々を仲良くすごしてますよ。今も妬けちゃいますね」 老人「それを聞いて安心しました。あやせさんありがとう。また会えるかね」 天使「桐乃とお兄さんを好きになってくれた人がいる限り、あたしはいつまでもこの世界に居続けます。 だからあなたも、変態話はほどほどにして下さいね。寿命前に埋められたくなかったら♪」 老人「ではできるだけ自重しましょう。お休みなさい、あやせさん」 天使「お休みなさい、桐乃スレの元住人さん」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1787.html
ある日の夕方。 俺はこんな会話をしながら、正門までの道を歩いていた。 「やっぱ、時代は黒髪だと思うの!」 「ふうん」 黒髪について熱く語っているこいつは、最近よく話をする俺の知り合いである。 まぁ、友人と呼んでやってもいいかな。 こいつの実家は秋葉原付近にあるのだが、大学に通うために、いまは千葉で一人暮らしをしてい るのだ。 「って、キミ、なんだよその素っ気ない生返事はぁーっ!せーっかく、黒髪の素晴らしさについて懇 切丁寧に教えてあげている人にする態度かな!?」 「あー、はいはい。ちゃんと聞いてるよ」 やかましいやつ。 おまえにわざわざ説明されなくても、黒髪が素晴らしいってことは俺も知ってるっての。 「むうっ……絶対真面目に聞いてくれてないよね、キミ。ねぇねぇ高坂、明日一緒に遊びに行こう よ!」 「は?なんでいまの文脈からそうなるんだよ?」 「いーじゃん、明日の祝日、ヒマヒマでさ。キミだってどうせ暇でしょ?ねぇ~、おねがぁい♪」 パンッと胸の前で手を合わせ、おねだりしてくる。 「断る」 「がーん!」 そんな他愛もない話をしている間に正門が見えてくる。 門をくぐると―― 「遅い」 妹が待っていた。 「わるいわるい。じゃあ帰るか」 「ん」 俺が妹と歩き出すと、後ろの方からこんな声が聞こえてきた。 「こーさかのいけずー!そんなに茶髪が好きなのかよぉーッ!ばーかばーか!」 分かってねぇな、黒髪マニアめ。別に茶髪が好きなわけじゃねぇよ。 俺はこいつが好きなんだ。 ――そんな一幕から一夜明けた早朝。 ジリリリリリリリリ――― 鳴り響いていた目覚ましの音が、ぴたりと止まった。 『お兄ちゃん!ほら、いつまで寝てるの?もう朝だよ?』 代わりに耳朶をたたくのは、聞き慣れた妹の声。 ざあっという快い音とともに、まぶたの裏側が光を感じる。 どうやらカーテンを開けられたらしい。 『……う……』 ベッドの中でうめく俺の身体を、妹は、容赦なく揺さぶってくる。 『早く起きないとご飯冷めちゃうでしょ?せっかく作ったのに』 ……ちっ、起きればいいんだろ、起きれば。 『おいしょ……っと』 俺はいかにも大儀そうに身体を起こし、うろんな目で妹を睨む。 制服姿の妹が、ベッドの脇に立っていた。 桐乃は強気な眼差しで俺を見据え、こう命じてきた。 『服も脱いで、洗濯するから』 『……はぁ。……毎朝毎朝……おまえは俺の奥さんか』 『は、はあっ?なに言ってんの?』 俺のツッコミのどこが気に触ったのか、桐乃は怒ってそっぽを向いてしまう。 そんな妹を見て、俺はいつもどおりにこう思うのだ。 ――俺の妹がこんなに可愛いわけが―― ぱぁん!と頬に強い痛みを感じた。 「痛って!な、なんだぁ!?」 最悪の目覚め。どうやら頬を張り飛ばされたらしい。 強盗か!?仰天した俺は慌てて目を開ける。 「っ」 まぶしい。カーテンが開けられているようだ。 腹に重みを感じるが、手足を拘束されているようなことはない。 強盗にしては中途半端な……って、おい! 「お、おまえっ」 襲撃者の姿を認めた俺は、目を見張ってしまう。 いきなり奇襲をかけられたもんだから、心臓がばっくんばっくんいってやがる。 「――――」 腹の上に跨って、優しく微笑んでいる黒髪ロングの美少女。 もしかしてこれも夢か?……夢だよな……うん。 しかし妙にリアリティのある夢だな……ひっぱたかれた頬も痛いし。 まぁ細かいことを気にしても仕方がない。いまある幸せを享受するとしよう。どうせ夢だし。 俺は腹の上で微笑む天使に向かって、爽やかに声をかける。 「あやせ、わざわざ俺の夢の中まで会いに来てくれたのか?」 「!?――死ねッ!」 「痛え!」 またビンタしてきやがったこのアマ!しかも痛い!夢じゃない!? ……って、待てよ。このビンタは身に覚えがある。 俺はもう一度、じっくり腹の上の人物を見る。 「……き、桐乃?」 「あやせじゃなくてゴメンネー」 「いや、黒髪美少女といえば、てっきりあやせが夢に出てきたのかなーと……」 「…………うっざ」 …………超不機嫌。 たぶん桐乃は朝一番で俺を驚かそうと(あるいは褒めてもらおうと)したんだろうけど、こいつが黒 髪になってるなんて知らなかったし、めっちゃそっくりなんだもん!双子じゃねぇのこいつら?ってく らい似てる!さすがのお兄ちゃんも見間違えちゃったよ!むしろ一瞬でここまで洞察した俺を褒め てほしいくらいだね。 ……とりあえず、なんとか誤解を解かねば……。 「えっとな、桐乃……俺、さっきまでおまえの夢見ててさ……まさか夢に出てきた黒髪の妹が、」 「浮気もん」 有無を言わせず、ジト目で睨んできやがる。 「浮気もん、浮気もん、浮気もん!」 「…………くっ」 「なにか言うことは?」 「……悪かったよ……」 反論しても喧嘩になるだけなので素直に謝っておく。 「オデコに『俺は浮気者のバカ男』です、って書いてもいい?」 「やだよ!」 それで一日過ごせってのか!? 仮に俺がドM男だとしても、そんなプレイは絶対に嫌だ! 「ちっ……しょーがないから許してあげるけど、今回だけだかんね。分かったぁ?」 鼻がくっつきそうなほど顔を近づけて凄んでくる桐乃。俺はこくこくと頷く。 「ならよし」 「………………」 ……つーか、俺はいま……早朝、自室のベッドの上で、妹に覆い被さられて、至近距離で見つめ 合っているわけだが……いい匂いすんなこいつ。 ……さっきから柔らかいケツが腹の上にぐりぐり押し付けられてるし。 俺は、はっと我に返って、 「と……とりあえず、ベッドから下りろ……」 呼吸を整えながら言ってやると、桐乃は明らかにムッとした表情で、俺の言葉に従った。 数年前の俺の言葉を借りれば『妹に乗っかられても重いだけである。どんなに見てくれがよかろう と、こいつは異性のうちに入らない』…………はずだったんだがな。 いま現在の俺は、ご存知かもしれないが、文字通り『妹に欲情する変態兄貴』に成り下がっちまっ たわけで。俺の心臓はあの頃と違う意味で張り裂けそうだ。 「よっと」 「………………」 腹に感じていた重みから解放される。 フゥ~……。ようし……桐乃には気付かれなかったようだ。 俺が必死に、暴れ馬を通常状態へ戻そうと意識を集中させていると、黒髪になった桐乃が毛先を 弄りながら聞いてきた。 「で、どう?似合うっしょ?」 「ま、まぁまぁ似合ってんじゃね」 「チッ、なにその上から目線」 他にどう言えってんだ。 こっちはいまそれどころじゃないんだって!察してよ!バカ!とはさすがに言えん。 「ちょ、ちょっと待て。いま寝起きで頭が回らん……」 「ふうん……なら三秒だけ待ってあげるよ」 「短すぎだろ!?」 「い~ち、にぃ~」 くそっ!あいかわらず理不尽な女だ!ぐぬぬ……よし……怒りのパワーのおかげで鎮まってきた ぜ。 ――ということで黒髪の妹を冷静に分析してみるとしよう。 俺がわざわざ言うまでもなく超似合ってるし、見た目だけで言えばめちゃくちゃ可愛い。 ゆるくパーマがかけられた長い黒髪に、丸い輪郭が穏やかな印象を与えている。 スーパー桐乃が完全体セルだとすれば、黒髪になって清楚系美少女(見た目だけだが)になった 桐乃は超完全体セルと言ったところか。 「さ~ん、はい、三秒待ったよ」 「…………」 「な、なに見つめてんの!?」 「いや天使だなーと思って」 素直な感想を述べる。 「て、天使……?」 「おう、天使――いや女神と言うべきか?」 「も、ももも、もしかして朝っぱらから妹に発情してるわけ……!?このヘンタイ!」 「…………」 褒めたら褒めたでコレだよ。どうしろってんだ? …………誰か助けてくれ。 「……ていうか、いきなりどうしたんだ?またイメチェンか?」 「ふっふっふ、それが違うんだなぁ~」 「じゃあ、なんだ?」 「当ててみてよ」 これである。 うーん…………前回桐乃がイメチェンした時を思い出す。 あの時は―― 「裏ボスと戦いに行くとか?」 「なわけないでしょ」 違ったか。……ってことは……いや……ない、とは自分でも思うけど……一応確認してみるか。 「……まさかとは思うが……お、俺のため、とか?」 「……っ……」 おっ!当たったか!? と、思ったのもつかの間―― 「はぁ~?」 「ですよねー……」 一瞬でもコイツを健気でかわいい妹だと思った俺がバカだったよ。 桐乃は更に追い討ちをかけるように罵倒を浴びせてきた。 「ププッ!ニヤニヤしながら『お、俺のため?』とかアンタどんだけ自意識過剰なワケェ?キモすぎ なんですケド~www」 クソうぜえ。 どうして目覚めた直後から妹の罵倒を聞かなきゃならないんだろうね。 夢の中に出てきた妹みたいに、かわいい態度を取れんのかこいつは。 俺は妹を睨みながら吐き捨てるように言ってやる。 「いまのはおまえがわざとらしい“間”を作ったからだろ」 「あんたがシスコンだから勘違いしたんでしょ~?」 「あーはいはい、もうそれでいいよ。で、正解はなんだってんだよ?」 「へっへへー……じゃーん!」 桐乃は後ろ手に隠していたファッション誌を俺に突きつける。 そこには〝次号・黒髪美少女特集〟と書かれている。 「黒髪美少女……はあ。もしかしてこれに出るために?」 「そ。あたしもそれに出るために黒髪にしたってワケ」 「なるほど、たしかにいまのおまえは見た目だけで言えば黒髪美少女そのものだからな」 「は?見た目だけ?」 おっと、口が滑ったか。 「それより桐乃、その黒髪特集ってのはいつ撮影するんだ?」 「それがさァ~、実は今日なんだよね~!へへっ」 嬉しそうににやける桐乃。 こういうところは割りと素直な俺の妹なのである。 「そっか……へぇ~。ま、頑張ってこいよ」 「なに他人事みたいに言ってんの?あんたも行くんだよ」 「はぁ~?なんで俺がおまえの撮影に付き合わなくちゃいけねーんだよ」 どこの世界に妹の撮影についていく兄がいるんだっつうの。 「ほんとはお父さんが見学に来る予定だったんだけど、急に仕事が入って来れなくなったの」 「……へぇ……」 親父……たまの休日を娘のために使うとか、親バカにもほどがあんだろ。 バカ高いカメラで娘の活躍を撮るのが趣味になっているうちの親父は、桐乃の撮影を見学するた びに不審者に間違われてるらしい。 ……しかしこいつももう高校生だってのに、読者モデルが保護者同伴とか恥ずかしくないのかね? 「ってわけで、お父さんの代わりに渋々アンタを見学させてあげよっかな~って!ひひ、感謝しな さいよね?」 「はあ?なんで俺が感謝しなきゃいけねーんだよ。そもそも行くなんて言ってねぇだろ」 撮影なんか興味ねえよ。 つうか、ぶっちゃけ恥ずかしいんだよ。かわいい女の子がいっぱいいるところで平凡な男が一人 でポツンと佇んでるところを想像してみろって。軽く死ねるだろ。 「一人で行けば?」 「ふうん……あっ、そういえば、今日あやせも来るんだっけ」 あやせが来るからなんだってんだよ。そんな餌で俺が釣られると思ってんのか? ったく、やれやれ――――はっきりと言ってやるぜ。 「お供させてください、桐乃様!」 ※ 「――とまあ、今朝はこんな感じだったな」 時は九月。 俺はため息を吐きながら、あいかわらず妹に振り回されているという話を一区切りさせた。 撮影場所である公園のベンチに座りながら、俺は妹に引っ張られた頬を撫でながらぼやく。 「あー、まだヒリヒリする」 「それはおまえの自業自得だ」 デジカメをパシャパシャしながら赤城が的確にツッコミを入れてくる。 「へいへい……そうっすね。ていうか赤城、なんでおまえがここにいんの?」 妹に連れられて撮影場所に来てみたら、こいつとバッタリってわけだ。 「ん?それはもちろん、ラブリーマイエンジェルあやせたんを俺のカメラに収めるために決まってる じゃないか」 「…………キモ」 思わず桐乃の口癖が飛び出すほどのキモさだわ。プロのカメラマンと違って、カメコっつーのは傍 から見ると非常に気持ち悪いもんだな。ていうか、前にも思ったけどあやせたんとか口に出して言 うなって。 隣の変態カメラマンに俺が苦い顔をしていると、デジカメを構えたまま赤城が聞いてきた。 「高坂、オマエはあやせたん撮らなくていいのか?こんなチャンスは滅多にないぞ」 今日の撮影は黒髪特集ということで、出番を待っている女の子たちはみんな黒髪の美少女ばかり だ。 いま撮影している娘はご存知あやせと、たしか森本蘭(?)だったか、宮本蘭(?)だったか。 あやせのファンである赤城からすりゃ至福の時間なんだろうな。 俺は準備してきたデジカメを構えずに、赤城にこう答えた。 「俺はいいよ」 俺がいまここに居る理由は妹を撮影するためだし。 「ふうん、そうか。なら、俺がおまえの分まであやせたんを撮影してやるよ」 「あんまりハメ外しすぎんなよ」 テンションの高い赤城を窘めるように言う。 ところが赤城は更に興奮した様子で発狂しはじめた。 「う、うおおおおおおおおおおおおおおっ!高坂見ろよアレ!お、俺のあやせたんが!上着を脱い でチューブトップ姿になったぞ!」 「なにィィィィィィィィィッ!?」 可憐な天使をガン見する野郎二人。 あやせとチューブトップといえば――いや、この話はやめておこう。 しかし、なんというエロ可愛さだ……赤城が興奮するのも頷ける。俺としたことが不覚にもドキリと してしまった。 高校生になって少し大人っぽくなったあやせの姿は、去年の夏頃までの俺なら『ラブリーマイエン ジェルあやせたんのチューブトップキタ――――ッ!』と興奮したモノローグを綴っていたに違いな いほどの、魅力的な姿だった。 ――隣で興奮していた赤城がぼそりと呟く。 「……結婚したいなあ」 「まぁ気持ちは分かる」 いまの俺にそれ以上の同意はできん。 「はぁ……かわいいなあ、あやせたん」 赤城はカメラを撮るのも忘れてあやせに見惚れている。ヨダレも垂れていた。 エロゲーやってる桐乃もこんな感じで『妹』にトリップしてるな。『じゅるっ♪』とか『ふへっ♪』とか… …。とはいえ女の子がトリップする分にはキモさの中にもまだ可愛げがあったんだが――男がや ると、ただただ気持ち悪い。 しかしまぁ赤城の感想自体には同意できたので、俺は冷静に世界の真実を告げる。 「たしかにあやせは天使といっても過言ではない娘だ。たぶん世界で二番目にかわいい美少女だ ろう」 「だよなぁ」 赤城も頷く。 そしてもう一つの世界の真実は―― 「「世界で一番可愛いのは俺の妹だけどな」」 ………………。 ゆっくりと目を合わせる俺たち。両者ともにこめかみがピクピクしている。 …………OK。一旦落ち着こう。こいつもとんでもないシスコン兄貴だからな。自分の妹を貶された と思ってキレかけてしまったんだろう。 とはいえ『俺の妹』が世界で一番可愛いことは俺が誰よりも知っている。その事実を〝あくまでも 客観的〟な見解で冷静に伝えればいいだけのことだ。 俺は深呼吸をし、穏やかな顔で赤城を見ると、再び――目が合う。 この短時間で落ち着きを取り戻したのか、赤城も穏やかな表情。 先に言葉を発したのは赤城だった。 笑顔を浮かべながら、とても穏やかな口調で淡々とこう告げた。 「いいか高坂、瀬菜ちゃんが世界で一番可愛い。これは揺るがない絶対の真実」 「あ?んだとコラ」 「オイオイ、真実を述べただけでキレるなよ」 一瞬で冷静さを失う俺。でも仕方ないだろ?こいつが事実を捻じ曲げた妄言を吐くから悪い。 俺は赤城の間違った解釈に内心かなりイラつきながらも、平静を装い、淡々と事実だけを赤城に 告げる。 「キレたわけじゃねぇよ。たださあ、前にも言ったけどおまえの発言は正しくないわけ」 「……なんだと?」 俺はあくまでも客観的立場から反論する。 「いいか赤城、桐乃が世界で一番可愛い。おまえの妹なんて足元にも及ばんくらいにな。おまえが どんな妄想をしようと勝手だけどさ、世界のしきたりくらいは覚えとけよ」 「グオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアア…………ア……ぁ」 俺はまた噛み付かれるのかと思い咄嗟に身構えたが、予想に反して赤城の怒りは鎮火していく。 そして不適に笑いながら―― 「クッ――クククク……!残念だったな高坂。おまえが何を主張したところで『俺の妹』が世界で一 番可愛いという勝負の決着はすでについている。俺と瀬菜ちゃんの圧勝という形でな!この先何 度闘おうが、おまえは絶対に俺と瀬菜ちゃんの愛には勝てん!」 「プッ、ねーよ」 鼻で嗤い返す。前回だって引き分けで終わっただろ?何が圧勝だ、笑わせんな。 強敵にメンチをきりながら高らかに俺は勝利宣言を叫ぶ――! 「おまえとおまえの妹程度じゃ、『俺と妹』の愛には絶対勝てねえよ!」 「ほう――前回コテンパンにされたくせに、そこまで断言するとは面白い。いいぜ……テメーの勘 違いを押し通そうってなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!もう一度決闘だ、高坂!」 「いいや、決闘はしない」 しれっと言ってやった。 「なにぃっ!?ここまで煽っておいて受けないだと……!さては貴様負けるのが怖くて逃げるつも りか!」 は?違ぇーよバーカ。息巻く赤城に俺は宣言してやる。 「おまえじゃ俺には勝てねえ。闘わなくてもわかる」 「コイツ……とんでもない大ボラを吹きやがって!」 俺はニッと口元を歪め、 「嘘じゃねえって、証拠ならあるぜ。おまえが勝てないという真実の証拠が三つもな」 「……なんだその妙な自信は……しかも三つだと……?」 「くっくっく――聞きたいか赤城さんよ?」 「…………うぐぐ」 ハッタリではないと悟ったのか、赤城は額に脂汗を滲ませながら呻く。 嫌だと言ってももう遅い! 俺は大仰な決めポーズの後、びしぃっと赤城を指差し、 「赤城、三つの真実を教える前におまえに言っておくことがある」 「な、なんだ?」 「おまえは以前こう言ったな。『よそ行きの笑顔じゃ、俺の心は震えない。家族だってのに、妹の写 真一つ持ってねーのか?』って」 「あ、ああ。おまえが見せてきたのは雑誌のグラビアばかりで唯一違ったのがプリクラだったな」 「そう……たしかにあのときの俺はそうだった。妹の生写真一つ持ってない駄目な兄貴だったよ」 俺はおもむろにカバンから一冊のアルバムを取り出し、赤城に突きつけた。 「これが一つ目の真実だ!」 「なっ……にぃ!い、妹とらぶらぶツーショット生写真だと!?」 「おまえも知ってのとおり、イブデートの時のものだ。まだあるぜ……クリスマスに妹と撮った超ら ぶらぶツーショットプリクラ!以前よりも段違いにらぶらぶなプリクラだ!」 「ぐはぁ……っ!くっ……た、たしかにとんでもない破壊力ではあるが、俺と瀬菜ちゃんのホッペに チューには遠く及ばんぞ!」 「フッ――甘いよ赤城。頬にキス?甘い甘い……おまえの妹との想い出はその程度なのか?」 「!……なんだと!?」 戦慄に顔を歪める赤城。 ククク――これが一つ目の切り札だ! 「俺はなぁ――!今年の冬から春にかけて!妹に添い寝してもらっていた!」 「なっ…………なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ―――――っ!?」 「それだけじゃないぜ赤城……俺は!毎日のように!妹のおっぱいをつんつんしていた!」 「ぐはぁ――――――――――ッッッ!」 絶叫とともに地面に膝をつく赤城。 一つ目の真実で力尽きたか……無理もない。俺と妹のイチャラブを最後まで聞いて立っていられ るやつなんていないからな。 ――と、思っていたら、赤城はすぐに起き上がる。 「おい高坂」 「なんだ?」 「いまの話、物的証拠はあるのか?」 「…………ない」 「じゃあ作り話かもしれないわけだな。そんな程度で俺を倒せると思っていたのか!」 「くっ……!」 さすが赤城だ……おまえほどの兄貴をここで倒せるとは思っちゃいないさ……!ならば、二つ目 の真実で恐れ戦くがいい! 「赤城よ」 「なんだ」 「この二つ目の真実は――あまりにも破壊力がありすぎて、できれば使いたくなかった。妹を持つ シスコン兄貴にとって致命的なダメージを与えると言われている、おぞましい古の呪文……」 「……はっ!……こ、高坂、貴様……まさか!?」 「そう、おまえの予想通り、滅びの呪文だ」 「や、やめろ……やめてくれっ!それを唱えてしまったらおまえもただでは済まんはず……!」 俺はババッと無駄にカッコいいポーズを決めて、 「いくぜ赤城……覚悟はいいか」 「や、ヤメロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォ ォォォォォォォォォォォッ!」 耳を塞ごうとする赤城より早く、俺は滅びの呪文を唱える! 「オ・レ・ヨ・ソッ!」 「!?」 俺が呪文を唱えた瞬間――カッと目を見開き、雷に打たれたように激しくケイレンを始める赤城 兄貴。 「ぐ……グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアア アアアアアア!せ、瀬菜ちゃん……!瀬菜ちゃんがあああああ!お・の・れ……真壁ええええええ ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」 赤城……おまえの気持ちは痛いほど分かるぜ……。 シスコン兄貴が深刻なダメージを受けている間に、オレヨソについて簡単に解説しておくとしよう。 オレヨソとは――『俺の妹はいつかよその男のものになる!』という可愛い妹を持つ兄貴なら死ん でも聞きたくない真実……いや、現実である。 兄妹では結婚なんてできないし、妹はいつか他の男と恋人になるのだ――という非情な現実を赤 城はすでに身をもって体験しているので、この呪文のダメージは計り知れない。 俺が解説している間に赤城はダメージを受け終わったようで、どさりと膝からくずおれた。 オレヨソ……恐ろしい破壊力だった。 シスコンであればあるほど深刻なダメージを受けてしまう禁断の呪文。もう立ち上がれないだろう。 ――と、思っていたらすぐに起き上がる赤城。 「おい高坂、一つ聞きたいんだが」 「なんだ」 「なんでおまえはノーダメージなんだ?おかしいだろ」 当然の疑問だろう。俺もまた、赤城に勝るとも劣らないシスコン兄貴である。 本来ならば、オレヨソは諸刃の剣……俺も赤城と同じく大ダメージを受けて然るべきなのだ。 でもな――赤城、気付いているか? おまえはその台詞を俺に〝言わされた〟ってことにな! 俺がニヤリと口の端を歪めるのと、赤城が「はっ!」と俺の仕掛けた罠に気付くのは、ほぼ同時だ った。 「フ――そんなに聞きたいなら教えてやろう、俺がどうしてノーダメージなのか。……赤城知ってる か?禁断の呪文は一つじゃない」 「ま、まさか……高坂おまえ!」 「滅びの呪文〝オレヨソ〟の対極にある奇跡の呪文……」 「……そ、そんなバカな!?ありえん!……あ、アレは限られた兄妹にしか許されない……掟破り の――」 俺は赤城に最後まで台詞を言わせずに呪文を叫ぶ! 「これが最後の真実だ!よっく聞けよ赤城……!俺は、妹と――」 「〝妹婚〟したんだよ!」 「なっ…………!」 目を見開き、衝撃を受けている俺の親友。 シスコン兄貴が固まっている間に、妹婚について簡単に解説しておこう。 妹婚とは――『俺が妹と結婚するわけがない』ということだ。 兄妹で結婚できない?……はあ?誰が決めたんだよ?法律?籍が入れられない? ……知ったことかよ!誰になんと言われようが俺は妹と結婚するぜ!てか、もうしたぜっ!――と いう限られた兄妹でしか実現できない奇跡の荒技である。 しばらく放心状態で固まっていた赤城がゆっくりと顔を上げ、 「こう…さ、か……」 「おう」 「よかっ……た……」 がくっ。 ついに力尽き、安らかな顔で倒れこむ。 ……ありがとうよ赤城。おまえのことは忘れないぜ。 「ところで高坂――」 「うおっ、しぶといな!……なんだよ」 「おまえの後に、営業用のエンジェルスマイルで立ってる黒髪の美少女がいるんだけどさ。もしか して高坂の妹さんじゃないのか?」 「なにっ!?」 慌てて後ろを振り向くと、 「………………」 氷の微笑で妹様が立ってらっしゃいました。 「せなちーのお兄さんこんにちは。ちょっと用があるので兄を借りていきますね」 「あ、はい……」 にこにこと天使の微笑みで赤城に断りを入れる俺の妹。 ……やっべえ!……桐乃さん完全にキレてるよ! 「じゃあ、あっち行こっか、兄貴♪」 「お、おう」 ぐいっと襟首を掴まれ妹に連行される俺。ぐえっ……苦しいっての! 助け舟を求めて後ろを振り向くと、 「高坂、おまえのことは忘れないぜ」 ですよね。怒れる妹に割り込めるわけないよね。 ※ 休日の昼下がり。 俺は妹様(ブチキレ中)に説教を喰らいながら、千葉中央駅周辺を歩いている。 「ほんっと、ありえないんだけど!アンタなんのために見学に来たワケ?」 「だから悪かったって」 説明しておくと、先ほどの『俺の妹が世界で一番可愛いから、おまえとは闘うまでもない』という死 闘を赤城と演じている間に、桐乃の撮影が終わってしまっていたのだ。 妹が怒るのももっともである。もっともである、が……何度謝っても聞く耳を持たないこいつに、い い加減イラついてきている俺の気持ちも分かってほしい。 ……どうして女ってのは、ねちねちねちねちねちねちねちねち、同じことを何度も繰り返し追求して くるのかね?これはうちの妹だけの現象なのか? ウンザリしている俺に気付いてないのか妹の説教はまだ続く。 「だいたいさー、あんた朝から超キモかったじゃん」 「なんのことかサッパリ分からんな」 桐乃は唇を尖らせ抗議してくる。 「あたしの撮影には来たがらなかったくせに、あやせの名前出した途端にほいほい付いてきたじゃ ん」 「それは誤解だって何度も言ってるだろ」 この話題、何度目だろうな。まぁ朝の一件は俺の説明不足が原因ではあるんだが。 俺が来ることを決意したのは、美少女の群れにあやせという知り合いがいると分かったからで、あ やせのために行ったわけじゃないんだって。 桐乃が撮影中でもあやせがいてくれたら安心できるからな。仮に赤城が来るって知ってたら、桐 乃だけだったとしても行ってたよ。 まぁあやせが来ないなら赤城は来なかっただろうけど。 と、何度この説明をしても桐乃は納得してくれない。ったく、面倒くさい女だぜ。 俺が桐乃語翻訳をマスターしたように、こいつも京介語翻訳をマスターするべきだと思う。 「ふーん、あっそ。まあそれは後でじっくり追求するとして」 「…………」 ……勘弁してくれ。 「なんでアンタはあたしが撮影してる時に、せなちーのお兄さんと盛り上がってたの?あたしをほっ たらかしにして」 「いや、あれはだな……」 「あれは?」 「過去の決着を付けてたんだよ」 「?なにそれ?」 きょとんと首を傾げる桐乃。 「覚えてないか?一年くらい前にさ、俺と赤城が『どちらの妹が世界一可愛いか勝負』したじゃん」 「あ~……はいはい、あんたがあたしにキスをおねだりした時の話ね」 「誤解を招くような言い方はやめろ!」 あれはあくまでも勝負に勝つためだから! 「まぁいいや。それで?」 「フッ、その因縁にケリをつけてたのさ」 「へぇ……その勝負に夢中になったせいであたしの出番を忘れた、と」 「…………すまん」 じとーっと半目で睨んでくる。おっかねえなぁ。 二年ほど前だったら間違いなく蹴りの一発でも飛んできた場面だと思うね。 桐乃は暴力に訴える代わりに、どうでもよさそうに聞いてきた。 「勝った?」 俺はぐっと親指を立て、 「完全勝利だぜ!」 「……ばかじゃん」 プイッとそっぽを向いてしまったので、妹の表情は見えないが――少なくとも怒ったわけではなさ そうだ。侘びも兼ねて昼飯くらいおごってやるか。 「よっし桐乃、昼飯おまえの好きなとこ連れてってやるから、今日のことはそれで勘弁しろ」 「え~、どうしよっかな~?まぁ、アンタがどーしてもって言うならァ、とりあえずご飯は付き合ってあ げてもいいケド~?」 「へいへい、どうしてもどうしても」 「ふひひ、まったくこのシスコンはしょーがないな~」 くねくねしながら答える桐乃。 このウザイ妹とまともに会話ができるなんて、俺の調教具合も相当進行してるよな。 諦めたら諦めたで『なんでそこで諦めちゃうわけ?もっと粘ればいいじゃん』――とか言われるん だぜ? まったく、やれやれ……。 と、そこで―― 「高坂せんぱいじゃないですか!」 聞き覚えのある声がして後ろを振り向くと、俺の元後輩であり、赤城の妹でもある瀬菜が片手を 上げていた。隣には彼氏の真壁くん。 「お久しぶりです、高坂先輩」 「おおっ!瀬菜に真壁くん久しぶりだな。元気にしてたか?」 「もちろん元気ですよー!というか久しぶりにせんぱいとカレの妄想ができてあたしのエネルギ ーはたったいま、フルチャージされましたッ!ティヒヒヒヒ……!」 「あ、ああ、そう……そりゃよかったな……」 あいかわらずだなー、こいつは。「すいません……」と真壁くんが申し訳なさそうに苦笑している。 腐女子と付き合うのも大変なんだなと、改めて認識したわ。 「ていうか高坂せんぱい、隣の綺麗な子は誰なんです?」 「えっ?あたし?」 瀬菜は眼鏡をくいっと持ち上げながら俺の隣にいる美少女を検分する。 あっ……こいつ、もしかして桐乃って気付いてないのか? 「ハッ――せ、せんぱい……まさか浮気ですか!?きゃあああああああ!ど、どどど、どうしよう! あたしいま、ドロッドロの三角関係を目撃しちゃってるんですかねっ!?き、桐乃ちゃんに連絡し ないと……!」 ちょ……!この腐女子なに大声でとんでもないこと叫んでんの!? 「おい落ち着け!浮気とかじゃねぇから!つーかコイツ本人だから!」 「桐乃ちゃんの番号は……あった!」 人の話を聞けよ! 「――あっ、もしもし!桐乃ちゃんですか!?」 おいおい……すれ違う人が「え?なに浮気現場?」みたいな好奇の視線送ってきてるじゃんか… …おまえはおとなしくホモ妄想でもしてろっての! てか髪の色が変わっただけで友達を識別できなくなるとか、とんだ魔眼遣いだなあオイ! 瀬菜から電話をかけられた桐乃は即スマホを操作し、 「うん、あたしだけど。せなちーとりあえず落ち着いて?あたしはさっきからここにいるよ?」 「えっ?」 瀬菜は目の前にいる桐乃をじっくり見て―― 「桐乃ちゃんじゃないですか!えぇ~、黒髪にしたんですか?ぜんぜん気付きませんでしたぁ!」 「へへっ、ちょっとね~」 「その色すっごい似合ってますよ!」 なんとか騒ぎが静まったか……。 俺がふうっと一息ついたところでポカーンと成り行きを見守っていた真壁くんが頭を下げてきた。 「ご迷惑をおかけしてすいません、高坂先輩……彼女が暴走しても僕には止められないんです… …」 「いや、真壁くんのせいじゃないって。瀬菜の暴走を止められるやつはなかなかいないし、それに こういう騒ぎには慣れてるから気にすんな」 慣れてしまった自分が哀しいが。 真壁くん十八番の氷属性のツッコミは、どうやら自分の彼女には使えないらしい。 そもそも俺の知る限りでは、御鏡にブチキレたときを除いて、真壁くんのツッコミの対象は部長し かいなかったような気もするし。 妹たちを見るとガールズトークに華を咲かせ始めたので、俺は真壁くんにゲー研の様子を聞いて みることにした。 「部員みんなのおかげで、今年の夏も無事コミケに参加することができました」 「へえ、そっか」 「はい。わりと好評でして、ホッとしましたよ」 新部長だもんな。プレッシャーがあったんだろう。 思い返せば、三浦部長はクソゲーしか作れなかったけど、彼はいい部長だったと思う。 「それでどんなゲームを作ったんだ?」 「……ガチホモRPGです」 ………………。 「モデルは?」 「僕を筆頭にゲー研の部員と、ゲストキャラで高坂先輩……あとは隠しイベントで仲間にできる彼 女のお義兄さんです……」 「……大変だったんだな」 複雑そうに笑顔を作る新部長。世の中にはいろいろな恋の障害があるものだと、高坂京介はひと つ教訓を得た。 しかし……お義兄さんね。 間違っても呼ばれたくない台詞だな。 もし桐乃に彼氏ができてそんな台詞を吐かれた日にゃ、そいつを殺さずにいられる自信がない。 赤城は偉いよ。……俺にはぜってー無理だわ。 「ところで、高坂先輩」 「ん、どうした?」 「少し悩みがあるんです……聞いてもらってもいいですか?」 真壁くんは神妙な面持ちで頼み込んでくる。彼がこんな風に頼み事をしてくるなんて珍しいな。 「いいぜ、どんな話だ?」 「そうですね、具体的に言えば――人生相談があるんです」 人生相談――久しぶりのフレーズに俺はテンションが上がっていく。 俺はどんっと胸を叩き、 「いいぜ真壁くん、俺に任せな」 「いいんですか!ありがとうございます!」 「まぁ俺に解決できる範囲でよければ、だけどな」 「ええ、もちろんですよ!こんなこと高坂先輩にしか相談できないので」 俺にしか相談できない、か。 待てよ……まさかアレのことじゃないだろうな?俺は一人の男のことを思い浮かべる。 親友を裏切るわけにはいかないので俺は断りを入れる。 「真壁くん、一応先に言っておくけど、瀬菜の兄貴を説得する手伝いなら俺はできないぞ」 「あ、違いますよ」 真壁くんはあっさりとそう答える。 どうやら的外れの懸念だったらしい。 「お義兄さんとのことは自分の力でなんとかしますから」 「……へっ、そうかい」 力強い返事に俺は苦笑する。 後輩の決意を聞き、自分のことのように共感してしまった。 そうだよな……他人の力に頼らず自分の力でなんとかしなきゃいけない場面ってあるよな。それ がたとえどんなに困難な壁だって分かっててもさ。 俺は立場上、こいつらの恋を応援することに関して複雑な気持ちになるが、頑張って兄貴を説得 してみろって思ったよ。 俺が説得される立場だった場合、それを試みたやつは今ごろ富士の樹海あたりでこの世から失 踪しているだろうけどな。 泣くんじゃなかったのかよって?ケッ――それは昔の話だろ? 『今』の俺にはもう、そんな選択肢は出現すらしない。 あいつを手放すことはもうできないのだ。 なんと言われようがこればかりは仕方がない。 「――先輩聞いてます?」 「んっ、ん?おう、悪い悪い」 ちょっと自分の世界に入っちまってたわ。 「それで相談っつーのは?」 「ええっとですね……少し言い辛いんですけど……」 「おう、言ってみな。俺は絶対バカにしたりしねぇからさ」 「はい…………実は――女の子と付き合ったら」 「うん」 俺が先を促すと真壁くんは意を決して本題を切り出した。 「……いつからおっぱい触ってもいいんですかね?」 「ぶふ――ッ!げほっごほっ!」 盛大にむせる俺。 「だ、大丈夫ですか?」 「お、おまえ、正気か!?」 「はい!僕はいたって大真面目です!」 は、はあ~~~!?なに言ってんだこいつ!? ばっかじゃないの?真面目な顔して、どんだけむっつりスケベなんだよ!発想が斜め下過ぎだろ っ!こんなしょうもない相談内容だとは夢にも思ってなかったわ! つーか、『女の子と付き合ったらいつからおっぱいを触っていいか』なんて、相談するアホがいた ことに驚きだぜ。 まあ、でも……たしかに大事なことではあるからな……ったく、しょーがねぇ。 俺は呼吸を整えてこう言ってやった。 「こほん……いいか、真壁くん」 「は、はい」 「彼女が寝てるときはいつでも触ってOKだ」 「えっ、いや、あの……僕、真面目に相談してるんですけど……」 「……なんだと?」 俺も真面目に答えたぞ?何が不満なんだこいつは。 そうか……もしかすると分かりにくかったのかもしれないな。 そう思い直し、俺はもう一度数少ない恋愛経験を顧みて、より正確なシチュエーションを伝える。 「よしっ、じゃあとっておきのやり方を伝授してやる。ありがたく思うがいい」 「お願いします!」 「まず、俺がベッドで寝ているとする」 「はい」 「で、起きたら隣に彼女が添い寝してるんだ。いわゆる、」 「もしかしてお布団ドリームですか?」 「そのとおり!」 さすが真壁くん。お布団ドリームの存在を把握しているとは。 「知っているなら話は早いぜ。まず、そのお布団ドリーム中に、すやすや寝ている彼女の匂いを嗅 いでみろ。『くんかくんか』――こんな風にな。すると、とてもいい匂いがするはずだ。そしたら、あと はもう欲望のおもむくままに好きなだけおっぱいをつんつんしてやるがいい!」 「………………あ、あの」 「おーっと、だが忘れるなッ!やつは高確率でタヌキ寝入りを決め込んでいるから注意が必要だ! 素人には判断がつかんだろうが、俺クラスの玄人になると、やつの寝息を聞くだけでガチで寝てる かタヌキ寝入りか見分けることが可能となるっ!そして、ガチ寝だと分かれば、あとはもうこっちの もんよ!これですべて上手くいくはずだ!フハハハハ――ッ!」 自信満々に熱弁する俺。 しかし―― 「せ、先輩!それはエロゲー以外でやったら通報されますよ!?」 「……え?……マジで?」 「マジですよ!はぁ……もう少し真面目に相談に乗ってくれると期待した僕が馬鹿でした」 あれぇ?俺は大丈夫だったんだけどなァ~。 どうやら俺では真壁くんの力になることはできなかったようだ……すまん。 真壁くんの人生相談が一段落したところで背中にゾッと嫌な視線を感じたので振り返る。 「でゅふふふふ……せんぱい、あたしのことはお気になさらずどうぞウチのカレと乳繰り合っててく ださい~。ねっ、桐乃ちゃん!あたしの言ったとおりだったでしょ~?」 「うそっ……あんた、もしかしてほんとにホモだったの……?」 「なわけねーだろ!」 断じて違うよッ!男同士で話してるだけでホモ扱いとかやめてくれませんかね!? この腐女子は、うちの妹に変な影響を与えるなって何度言えばわかるんだ! 二人はこれから乙女ロードにデートに繰り出すらしいのでそこで別れることに。 別れ際―― 「高坂せんぱい、それでは失礼します」 「おう……そういやぁ、今日おまえの兄貴に会ったんだけどさ、あいつは手強いと思うぜ」 「……そーですか。ふふっ、頑張ります。あたしとカレの二人で」 「ああ、頑張りな」 「桐乃ちゃん、いつでも連絡してくださいね!あたしの厳選BLゲーが山ほど溜まってますから!」 「う、うん、そのうち連絡するね……」 ぺこりとお辞儀をし、腕を組みながら去っていくオタクカップル。 見せ付けてくれちゃってよー、アツアツじゃねえか。 ちっ……なんか無性に腹立ってきたぞ。 「なぁに?もしかして、羨ましいの?」 「はあ?べっつにー?」 超羨ましいよ!ちくしょう! 「ふーん……あたしたちも手、繋ぐ?」 「えっ!」 「ほら――」 スッと手を差し出してくる妹。 照れくさいのか、桐乃も顔が紅潮しているように見える。 黒髪の妹か……すごくいいな、これ。……フヘヘ。 あ、やっべ……なんか、久しぶりすぎて緊張してきた……。 ごくりと唾を飲み込み、妹の手を握ろうと手を伸ばす、が―― 「なーんてねー」 「なっ!?」 ヒョイッと避けられ俺の手は空を切る。 「あれあれぇ~?もしかしてぇ、その気になっちゃったぁ?ひひ、きっもーい♪」 「ぐぬぬ……ッ」 こっの……このクソアマ!どこまで人をおちょくれば気が済むんだ! ぐすっ…………あ、いかん。……悔しさのあまり涙出てきた。 「もうっ、泣いてないでさっさと行くよ」 「ば、バカ!泣いてねーよ!」 桐乃が昼飯に選んだ場所はいつかのスイーツショップだった。 案内待ちの間に店内を見回すと――以前、妹に連れてこられて入ったときよりもカップルの比率 が多い。場慣れしてるのか堂々としてる彼氏さんたち。 俺は素直に感心してしまう。たしか俺が前に来たときは、落ち着きなくきょろきょろして妹に怒られ たっけ。……見てろよ、同じ徹を踏む高坂京介さんじゃないぜ。 しばらくすると店員さんが席に案内してくれた。 「お待たせしました。こちらのお席へどうぞ」 俺はびしっと背筋を伸ばし、 「さぁ行こうかっ、マイハニー」 「…………オエッ」 窓際の四角いテーブル席に通され、俺たちは向かい合って座る。 「ったく、今日はカップルが多いから見栄張りたいのは分かるけど、もうちょっとまともな台詞のチ ョイスできないワケ?」 「まともなつもりだったんだが」 語彙が乏しいのは、いまに始まったことじゃないしね。 「はあ……あんたがここまでエロゲ脳になるとは……」 「ぐっ……!」 見栄張ろうとしたのは事実だけどさあ!エロゲ脳とかおまえにだけは言われたくねーよ! 「じぃー……」 哀れみの視線をやめろ! 俺は話題を変えるために、わざとらしくメニューを開く。 「さて、なに頼む?なんでもいいぞ?」 言葉通り、カップル用のパフェでもドリンクでもなんでもこいだ。 ところが桐乃は―― 「注文はもう少し後にしない?」 「なんで?」 結構、腹減ってるんだけどな。 「もうすぐあやせ来るからそれからでいいっしょ?」 「え?あやせ来んの?」 「うん。仕事が終わってからちょっと用事があるって先に帰ったんだけど、さっきあんたがガッコの 人と話してるときに用事終わったって連絡があってさ、それじゃ合流しようかって話になったの」 そういやぁ……さっき撮影が終わってから、いつの間にかあやせのやついなくなってたんだよな。 俺はてっきりニンジャの里に帰ったのかと思ってたぜ。 「そっか。なら、あやせが来てからでいいな」 「うん」 ――そして十分後。 ようやくあやせが現れた。 「ごめーん桐乃、遅くなっちゃった」 「ううん、そんなことないよ」 軽い挨拶を交わし、あやせは桐乃の隣に腰を下ろす。 「お兄さんもご無沙汰してます」 「おう、今日の撮影、おまえの活躍しっかり見てたぜ」 「ふふ、ありがとうございます」 「……あたしの活躍は見てなかったくせに」 鋭く突っ込んでくる桐乃。こいつまだ根に持ってやがんのか。 「……よし、とりあえずなにか頼もうぜ!」 「あ、ごまかした」 「最低ですね、お兄さん」 「………………」 美少女二人に責められるシチュエーションって、そっち方面の方々にはご褒美と聞いたことがある けど、あいにく俺にそういう性癖はないから嬉しくもなんともない。 二人の冷ややかな視線を一旦無視して、オーダーを決める。 俺はパンケーキとアイスコーヒー、桐乃はイチゴのショートケーキとアイスティー、あやせはチーズ ケーキとアイスティーをそれぞれ注文した。 さすがに知り合いの目の前で、カップル専用パフェに挑む勇気はないっす。 「ふう」 注文した品を食べ終わった俺は、アイスコーヒーを啜りながら対面の黒髪美少女を眺める。 こうやって並んでるところを見るとまるで姉妹のようだな。 実際は、美少女と狂信者のような関係……少し違うか。 そうだな……二次元妹が桐乃だとして、それに発狂してる桐乃があやせみたいな。 うむ、我ながら的確な例えだと思う。 彼女たちの話の内容は、どうやら撮影の反省会のようだ。 二人とも読者モデルという仕事に、しっかりとプロ意識を以って挑んでいるので、仕事のあとはこう いう話題が多いのかもしれない。 ケーキを食べ終えたあやせは紅茶を一口のみ、俺に話を振ってきた。 「それにしてもお兄さんすっごい目立ってましたよ」 「ははは……ちょっとな」 バレてたのか……。いや、まぁ、普通に考えてあれだけ騒いでたらバレない方がおかしいよな。 何人かギャラリーもいたような気もするし。 「なんでしたっけ?『俺は桐乃と〝シスコン〟したんだよ!』とか叫んでましたよね」 「う、うん。そうだねぇ、言ってたね」 「……バカ」 真っ赤になって睨んでくる桐乃。 シスコンじゃなくて妹婚なんだけど、あやせに説明して伝わるとは思えんし俺は話題を変える。 「と、ところであやせ、撮影終わってから一旦帰ったみたいだけど、なんの用事だったんだ?」 「えっ……それは……」 軽い気持ちで聞いてみたんだが、あやせは何故か口篭ってしまう。 なんだ?なにか聞かれたくないことでもあるとか? 『おまえはなにか知っているか?』という意味を込めて、桐乃とアイコンタクトを交わすと『うーん… …あたしも知らないんだよね。あやせどうしたんだろ?』と目だけで返事をしてきた。 桐乃も知らないのか。 ふむ…………一応フォローしておいた方がいいかもな。 「ええっと、なんだ。言いたくなければ言わなくていいぞ?」 「あっ、別にそういうんじゃないんです」 「そうなのか?」 「はい……ただ少しいい辛いというか」 そこで溜めを作るあやせ。 ……なんだってんだ。まさかとは思うが、ついに加奈子を山に埋めてきたとか告白するつもりじゃ あるまいな? ――いま気付いたけど、あやせの前髪には桐乃から貰った宝物がついている。 彼女は、特別な時にしか付けないと言っていたヘアピンを軽く触り、こう切り出した。 「実は――」 「わたし、カレシができたんです!」 「え…………」 あやせの口から飛び出したとんでもない爆弾発言に、俺と妹は顔を見合わせ、 「「えぇ――――――ッ!?」」 ※ あやせから驚愕の事実を聞かされた俺たちは、現在、秋葉原駅に来ている。 これからカレシとデートなのだというあやせに、何故か俺たちはくっついてきたのだ。 別にデバガメをしようってわけじゃない。あやせのカレシとやらの面をチラッと拝みたいだけだ。 というわけで、断じてストーカー行為ではないと主張させてもらう! デートの待ち合わせ場所と思われるところから少し離れた場所で、様子をうかがう俺と桐乃。 あやせのカレシ…………いったいどんなやつなんだ。 俺がそう考えていると、どうやら桐乃も同じことを思っていたようで、 「ねぇ……どんなやつなのかな?」 「……さぁな」 さっぱり見当がつかん。 あやせも桐乃と同じで相当モテるだろうし、イケメンのモデルやらデザイナーやらに声をかけられ ていてもおかしくはないからな。 正直言って、以前彼女から告白されたことのある俺からすると、ほんのちょっぴりだけ複雑な気持 ちである。 昔は俺のことが好きだったけど、いまは違う――とか。なんだろうな、このモヤモヤ感。 ………………。 可能性を考えてしまった俺は急に不安になってきて、思わず桐乃に聞いてしまう。 「なぁ桐乃……」 「ん?なに?」 「おまえさ、いまでも俺のこと好き?」 「――はあ?」 まぁ……こう返ってくることは分かってたんだけど。 俺のことを嫌ってるふりをしなきゃいけないしな。 …………そうだよな?そうだと思いたい。 「シスコン」 「……うるせぇ」 意気消沈しているのを見かねたのか、桐乃は俺の耳に口を寄せて、こう囁いた。 「家に帰ったら、一回だけ言ってあげる」 「まじで?」 「一回だけね」 そう言って桐乃はそっぽを向いてしまう。 へへっ……やったぜ。桐乃は滅多に素直な気持ちを言ってくれないので、もしかして俺の一方通 行な想いなのでは?と、ちっとばかし不安になるときもあるのだ。 最近読んだプラトニックデート特集では、しつこく自分のことを好きか聞いたりするのはNGだと書 いてあったけど、俺はそうは思わない。言葉で想いを確認し合うという行為は大事なことだと、俺 は思う。 ちなみに女のNGワードは、自分のどこが好きかを聞くことだと書いてあったけど、これも俺はどう かと思うね。 俺は桐乃の顔も好きだし、いろんなことに一生懸命な姿も好きだし、健気に俺のことを想ってくれ ている……と、思うし――あと、素晴らしいケツな。 このとおり、俺は桐乃の好きなところを余裕で答えられる。 ていうか、どのデート雑誌にも書いてないんだけどさ、妹と合法的にいちゃつける方法を誰か教え てくれないかね。もしくは、そういうことが書いてる書籍を切に求める! …………今夜あたり『兄妹なんだから別にいいだろ』と迫ってやろうかな。 俺がそんな妄想を膨らましていると、桐乃が袖を引っ張ってきた。 「ねぇ、あやせが誰かとメールし始めたよ」 「むっ……相手はカレシとやらか」 メールを終えたあやせはカバンからなにやら四角い物体を取り出し、それに向かって語りかけ始 めた。 な、なんだ?あやせのやつ、ついにイカれちまったのか? 「……おい桐乃、あいつは何をやっているんだ?」 「さ、さあ……なんだろ?ゲーム?」 そんなわけあるか。 と、思った俺だったが――よく見るとあやせが手にしているのは俺も見覚えがあるゲーム機のよう に見える。 あれはたしか……。 「あっ、ラブタッチじゃん!」 声を上げる桐乃。 「ねぇねぇ!ラブタッチじゃないアレ!?」 「ちょっ!おまっ、袖をぐいぐい引っ張るなって!」 興奮している桐乃を宥めて、よく観察すると……。 「……マジかよ」 「やっぱ、そうでしょ?」 そんなバカなと思ったが、あやせが語りかけているあれは間違いなくラブタッチだ。 違うゲームかもしれないのに、なんで離れた場所から断定できるのかって? それはな……あの気持ち悪い光景に俺にも身に覚えがあるからだよ。 画面に向かって、『愛してるよ』とか囁いてるあのヤバイ光景にな。 そのまましばらく観察していると、桐乃がこんなことを言い出した。 「あっ……もしかしてあやせって、アレにはまってるのかも」 「なんだよ、アレって。心当たりでもあんのか?」 「うん……いちおー」 なんか歯切れの悪い言い方だな? と、思っていたら、桐乃はとんでもないことを言い出しやがった。 「あのさ……実はあたしもカレシいんのね」 「はあ!?」 脳の血管ブチ切れるかと思ったわ! 嘘だろ……そんな……あるはずがないと思っていた悪夢が……! はっ……そ、そういえば先日、桐乃が貸してきた妹めぃかぁの最新作に、寝取られとかいう胸クソ 悪い展開があったような……。ま、まさかこいつは、それを体現して『どう思う?』とか聞いてくるつ もりなのか!? 俺が怒りと絶望でプルプルしていると、桐乃が焦って弁明を始めた。 「ちょ!あんた絶対勘違いしてる!」 「ああ!?何がだよ!」 「そ、そんな怖い顔しないでよ……」 無茶言うな! 「あ、あたしの言ってるカレシってのはコレのこと!」 「は?……スマホ?」 「そう!ちょっとこれ見て」 桐乃が見せてきた画面には、『ボーイフレンド(仮)』などという画面が映し出されていた。 「……これがなんだよ?」 「もうっ!まだわかんないの?これは『シスゲー』のアプリのひとつなわけ!」 「シスゲー…………あ、もしかしておまえのカレシってのは?」 シスゲーというのは、去年の冬頃、俺にとって重要なキーアイテムとして登場したSNS系のゲーム だ。そして、いま桐乃が見せてきたゲームはそのシスゲーのアプリのひとつだという。 ゲームの題名から考えると……。 「そ。あたしは、これに登場してくる『涼介』って兄と仮想恋愛してるわけ」 そういうことらしい。 なんだそりゃ!?紛らわしい言い方すんなや!…………と言いたいところだが、はぁ――――安 心した……。というのが本音である。……この世の終わりを垣間見た気がするぜ。 「はぁ……驚かすなよ」 「なに?ゲームに嫉妬しちゃったの?ふひひ」 俺が怒ってないと分かった途端、ソッコーでおちょくってきやがる。 「ケッ――悪いかよ?」 「はいはい、拗ねない拗ねない」 くそっ、子供扱いしやがって。これが惚れた者の弱みというやつか……。 「つーかおまえ、そういうゲームもすんのな。BLゲーみたいなやつ」 「BLとは全然違うって。これは乙女ゲー」 どう違うのか俺にはイマイチ分からんが、桐乃いわく違うものらしい。 「あたしも普段はこういうのしないんだけどさ、ちょっと見て、これ」 「どれどれ……」 桐乃のスマホ画面には金髪のだるそーなイケメン野郎が映っている。 なんか感じ悪そうなやつだなぁ。生意気っつーか、金髪の癖に優等生っぽいところが特に。 桐乃はこういうのが好みなのか? 「でねっ、この涼介って男の子には妹がいんの!ふっふっふ、実のところあたしがこのゲームをや ってる理由は、この娘のためと言っても過言ではないっ!」 「そういう理由かよ」 ついに妹ゲー以外の妹にも手を出し始めやがったのかこいつは。 桐乃は興奮した様子で、 「あったりまえじゃーん!ほら、見て見て!超かわいいから!」 ぴたっとくっついてきた。 あいかわらずテンション上がるとこうだもんなぁ。 俺はドキドキしながら桐乃のスマホを覗き込む。 画面には、黒髪ツインテールの女の子が映っていた。 キャラクター名には『優乃』と書いてある。 「ねっ?かわいいっしょ?」 「た、たしかに、めちゃくちゃかわいいな……」 「でしょ~!ゆうちゃんはマジで天使!普段はお兄ちゃんに構ってほしくて、ついツンツンしちゃう んだけど、だいたいはお兄ちゃんに軽くあしらわれちゃうのね。でも、いざ妹がピンチになったとき には、涼介が大活躍すんのー!そんで、お兄ちゃんに助けられたゆうちゃんは、『あたしの人生は お兄ちゃんに捧げるしかない!』って決意すんの!でもでも、ゆうちゃんには超強力なライバルが いて――――」 どうやら押してはいけないスイッチを押してしまったらしい。延々と妹キャラへの熱い想いを語って やがる。 俺はペラペラくっちゃべってる妹を一旦無視してあやせの様子をうかがってみる。 うわぁ……あっちも嬉しそうにゲームに話しかけてんなぁ。傍から見ると完全にヤバイ人だぞ。 あやせが一旦家に帰ったのは、あのゲーム機を取りに戻っていたからか? 「――ちょっと、聞いてんの?せっかくあたしがゆうちゃんのエロ可愛さを語ってあげてるのに」 「ちゃんと聞いてるって。それより桐乃、あいつのやってるゲームはラブタッチだろ?ラブタッチに カレシ機能なんてなかったよな?」 俺も、ラブタッチという魔性のゲームで、『あやか』と『きりたん』二人の女の子を虜にした経験のあ る、ラブタッチマスターである。 しかし俺の記憶では、あのゲームはカノジョは作れてもカレシなんて作れなかったはずだ。 「うん、『ラブタッチ』ではね」 「どういうことだ?」 「最近、ラブタッチの乙女ゲーバージョンが出たの」 「……なるほど。女の子向けのラブタッチということか」 「そう。いわゆるガールズサイドってやつね」 仮に情報を知ってたとしても、その内容じゃ絶対買わないな。男と恋愛なんざ誰がするか。 ホモゲーとの違いがイマイチ分かってない俺なのであった。 「おまえはそのゲームやらねぇの?」 「んー……実は最近すっごい薦めてくるやつがいるんだよねー」 「誰から薦められてんの?」 思い浮かべてみるが、俺の知り合いにああいう系統のゲームをするやつなんていたっけ? とそのとき―― 「あなたたち何をやっているの?」 「「!?」」 突然背後から声をかけられ、飛び上がる俺&桐乃。 振り向くと、そこには見慣れたゴスロリ衣装の少女がいた。 「く、黒猫か……」 「いきなり後ろから声かけないでよ。ビックリするじゃん」 「不審者カップルが視界に入ったものだから、つい、ね」 黒猫は先と同じ質問を繰り返した。 「で、何をやっていたの?」 「てか、あんたこそ何しにアキバまで来たの?」 質問に質問で返す桐乃。 まぁ、アキバを歩いてるとオタク仲間に出会う確率は高いから不思議ではないんだが、桐乃が聞 きたいことは、オフ会でもないのにどうして黒猫が一人でここに居るのかということだろう。 黒猫はあっさりと答えた。 「デートよ」 「えっ!あんたも!?」 「ええ、あそこにいる新垣あやせと待ち合わせをしてるの」 ビッとあやせを指差す黒猫。 ……ということは、もしかしてこいつも。 「今日は、或るゲームをアキバで起動することによって特殊なイベントが発生するのよ」 「えーと……黒猫もそのラブタッチの乙女ゲー版をやってるのか?」 「あら、詳しいわね。そのとおりよ」 やっぱりか。 「あなたの妹にも前々から薦めているのだけど、なかなか手に取ってくれなくてね」 そっちもおまえか。 「かわいい妹キャラが出るならやってあげるっつってんじゃん」 「実は今度のアップデートで、ボーイフレンド(仮)のキャラクターが限定配信されることが決まった けど、興味ないかしら?」 「そ、それって、涼優ちゃんが出るってこと!?」 ものすごい勢いで桐乃が食いついた。 ふむ、さっきの黒髪ツインテールの妹キャラ(と兄の金髪)が出るのか。 なにはともあれ黒猫もあやせもカレシができたようで……なんとコメントしていいものか……。 『おまえら目を覚ませ!それはただのゲームだ!』と、言うべきなのだろうか。 とはいえ、そもそもこいつらのカレシについてとやかく言う権利は、最早、俺にはないわけで。 まぁ……でも、心配しなくても大丈夫だろう。 俺の経験上、ああいうゲームはそのうち飽きて起動しなくなるはずだ――――多分。 ※ 帰宅後、俺がベッドでくつろいでいると、こんこんっとドアがノックされた。 「あたしだけど、入るよ」 「おう」 身体を起こして返事をすると、パジャマ姿になった桐乃が俺の部屋に入ってきた。 そしてごく自然にベッドに腰を下ろす。風呂上りなのか、ふわりと石鹸の香りが漂ってくる。 「ふぅ~、今日は結構ハードな一日だったね」 「そうだな」 桐乃に連れ回されてハードじゃなかった日の方が珍しいけどな。 知り合いの遭遇率も高かったし、比較的ハードスケジュールな休日だったとは思うけども。 「まさか黒猫たちにカレシが出来てたなんてね~」 「二次元カレシな。つーか、それはおまえもだろ?」 「あたしはあいつらとは違うから。ゆうちゃんをペロペロするために仕方なくだから」 「ふーん……その割には、黒猫の誘いに乗り気だったみたいに見えたけどな」 我ながらガキっぽい嫉妬である。 当然ながら桐乃にはバレバレなのでからかわれてしまう。 「このシスコンはすーぐヤキモチ焼くんだから」 「はぁ?別にそんなんじゃねーし」 「そーだなぁ……あんたがどーしてもイヤって言うなら、やめてあげてもいいケド?」 「よし、じゃあ、やめてくれ」 即答する俺。 ゲームとはいえ、カレシとか作られて気持ちのいいもんじゃねぇっての。 金髪野郎が出てこなくて、ゆうちゃんとやらが出るだけのゲームなら別にいいけどな。 「フヒヒ、考えといてあげる♪」 「はぁ~……そうかい」 ため息を吐くと、桐乃はベッドにころんと寝転んだ。 「おい、寝るなら自分のベッドで寝ろよ」 「別にいいでしょ。……ほら、あんたも早く横になる」 くいくい袖を引っ張ってくるので、俺は「へいへい」と呟きながら、枕ひとつ分ほどの距離をあけて 桐乃の隣に寝転ぶ。 「なんでビミョーに離れてんの?もっとこっちこい」 「いや……だってよ」 これ以上近づいたらまずいだろ……色々と。 そういうわけで俺が葛藤していると、桐乃がチッと舌打ちをしてからズズイと近づいてきた。 「お、おい……近いぞ……」 「なに?イヤなの?」 「そういうわけじゃねーけど……」 ピッタリと密着して、唇が触れそうな距離で見つめてくる桐乃。 ……これはゼッタイ、『普通の兄妹』の距離じゃないですよね!? いかん……顔が熱くなってきた……。 「あんた顔赤くない?」 「……うるせー」 そういう妹の顔も真っ赤である。 俺の顔も、いまこんな風に赤くなってるんだろう。 「ねぇ」 「……なんだ?」 至近距離で囁くように喋るもんだから、吐息がくすぐったい。 「あたしがどう想ってるのか帰ったら教えてあげるって言ったでしょ」 「おう」 「……そんなに聞きたいの?」 「――ああ、聞きたい」 そう応えると、桐乃はこくんと頷き、俺の耳元に口を寄せ、 「あたしは……あんたなんか大ッキライ」 「………………」 こんな台詞をほざきやがった。この言葉に込められた意味が分からないやつなんていないよな? 再び至近距離で見つめ合う俺たち。 「へっ、そりゃどーも」 「ん」 そのまましばらく見つめ合っていると、桐乃は俺から視線を外して、恥ずかしそうにぽそぽそと本 題を切り出した。 「……あんたのことなんて大嫌いだし、あたしはすっごいすっごいイヤなんだけどさ、今日はあんた に付き合ってもらったし?ご褒美あげてもいっかなー、みたいな?」 「ご褒美と言いますと?」 「京介がど~してもってゆーんなら、特別に一緒に寝てあげてもいーよ?あたしとしてはチョー嫌な んだけどさぁ。まぁ、兄妹だしねぇー、これくらいのご褒美はしてやろっかなーって……へへっ」 …………ったくよー。 そんな言い方されて俺が喜ぶと思ってんのか、こいつは。 ぶっちゃけいますぐベッドから追い出してやりたいぜ。 ふん……まぁ、でも、兄妹だしな。 しょーがない、どーしてもってゆーんなら、一緒に寝てやるよ! 「じゃあ、ほら」 「ん」 俺の左腕に頭を乗せてくる桐乃。 「てか電気消さねぇと」 「あ、待って。ちょっと目ぇ瞑ってて」 「えっ…………な、なんで?」 「いーから」 妹に命じられるまま目を閉じる俺。 な、なんだ……いったい何が始まろうとしているんだ? 「言っとくけど目開けたらコロース」 「わ、わかった」 薄目で覗こうとした矢先に釘を刺されてしまったので、代わりに耳を澄ますと衣擦れのような音が 聞こえてくる。 ま……まさか、これが本当のご褒美というわけか!?――ちょ、ちょっと待て!まだ心の準備が ……! 「はい。目開けてもいいよ」 「…………」 心の準備が終わる前にそう言われてしまったので、俺は覚悟を決めゆっくりと目を開ける。 俺の眼前に広がった光景は―― 「……ツインテール?」 「似合うっしょ?」 なるほど、さっきの衣擦れのような音は髪をしばってた音だったのか。 ふぅ……びびらせやがって。安堵より落胆の気持ちの方が大きかったことはここだけの話だ。 俺は額の汗を手の甲でぬぐい、目の前の黒髪ツインテールの妹を観察する。 と、あることに気付いた。 「なぁ桐乃、もしかしてそれ――ゆうちゃんとやらの真似じゃねぇ?」 「おっ?アンタにしてはなかなか鋭いじゃん!」 大当たり。 実はゲームの画面を見せてもらったときから、コイツ、桐乃に似てるなぁーって思っていたのだ。 それが髪型までそっくりそのままに真似してきたもんだから、ニブい俺でもさすがに気付いたっ てわけ。 実際見たら驚くと思うぜ?そっくりなんてレベルじゃないから。 なんとなくだけど、桐乃に女の子供が生まれたらこんな感じの子に育つんじゃないかなって思う。 「すっげー似合ってるな」 「へへっ、妹っぽいっしょ?」 元からおまえは俺の妹だろ――と、ツッコもうとしたが。 たしかに言われてみると黒髪ツインテールってのは妹っぽく見えるもんだな。不思議なことに。 桐乃の言ってることもあながち間違っちゃいないわけだ。 さすが妹マスター。 ということで、俺は妹が最も期待しているであろう台詞を選択する。 「おう。その髪型めちゃくちゃ可愛いぞ。こんなに可愛い妹は見たことねぇや」 「それって普段のあたしが可愛くないって言いたいわけ?」 「ええっ!?」 なんだこのふざけた選択肢は!?今日一日どれを選んでも罵倒しか返ってこないんですけど! くそっ……黒髪妹、舐めてたぜ。……普段より難易度高いじゃねーか。 「ぷぷっ!なに焦ってんの~?どうせ選択肢間違えたーとか思ったんでしょ?」 「ち、ちげぇよ!」 概ねそのとおりだがな! 「まぁいいや。じゃ……はい」 「……なんだよ?」 桐乃はベッドから下り、びしっと決めポーズのような格好をとっている。 意味が分からない俺は、妹の頭がおかしくなったのか不安になったのだが、 「撮影会――続き」 いつものように単語ブツ切りで呟く桐乃。 ――こうして俺と妹の二人きりの撮影会で夜は更けていくのだった。 翌日の夕方。 俺はこんな会話をしながら、正門までの道を歩いていた。 「――でさ、一日中シスゲーやっててやっぱり確信したね!黒髪は神だよ!略して黒神だよ!」 「一応教えておいてやるけど、おまえの熱意は発音だけじゃあまったく相手に伝わらんぞ」 「なにィ~~~ッ!?くっ、黒髪マスターとしたことが……なんたる不覚……ッ!」 黒髪について熱く語っているこいつは、最近よく話をする俺の友人である。 どうやらこのバカは、貴重な祝日を丸一日ネトゲーに費やしたらしい。 時間を無駄にすることに関して、こいつの右に出るものはいないんじゃなかろうか。 本人いわく暇つぶしのプロらしいが、俺から言わせりゃ時間の無駄遣いのプロである。 「でもまぁ、おまえの言いたいことはなんとなく分かるよ」 「あれ?今日は珍しく食い付いてきてくれたね?」 「まぁ、たまにはな」 昨日は一日中、黒髪の美少女様とデートしてたからな。 やはり黒髪は素晴らしいものだと、俺も声を大にして主張したいくらいだ。 「じゃあさ、じゃあさ!今週の週末デートしようよ!それで黒髪の素晴らしさをたくさん語ろうよ!」 「は?なんでおまえとデートなんかしなきゃならんのだ?」 「いーじゃん、週末は超ヒマヒマでさ。キミだってどうせ暇でしょ?あっ、わかったぞぉ――――ふっ ふっふ~……そうやって焦らすことによってエロい要求を女の子に呑ませるテクニックというわけ ですね?うひ~っ、高坂はスケベだな~、じゃあこうしようよ!高坂くんがぁ~、デートしてくれたら ぁ、おっぱい触らせてあげてもいいよん?」 長台詞を喋りきり、最後にぽよんと豊満な胸(偽乳)を持ち上げながら、おねだりしてくる。 「断る」 偽乳なんぞに興味があるか。 「がぁ――――――んッッ!?お、女の子の尊厳を一刀両断はさすがに泣いちゃうよっ!?」 「女としての尊厳を保ちたければ、おまえはまず、その残念すぎるファッションセンスをなんとかす るべきだと俺は主張するね」 「ぐぬぬ~…………!」 そんな他愛もない話をしている間に正門が見えてくる。 「そんなことより黒髪マスターさんよ、今日はとびっきりの黒髪美少女をおまえに紹介してやるぜ」 「え、だ、だれ?もしかして高坂の愛人!?」 「そんなわけあるか!まぁ、見てろよ。門の向こうで健気に待ってるはずだ」 そして門をくぐると―― 「遅い」 黒髪の妹――――ではなく、茶髪の妹が待っていた。 ………………えっ? 何がどうなってるのかサッパリ分からない。 たしかに昨日の夜までは黒髪だったはずなのに、なんで茶髪に戻ってるんだ? 俺はすっかり狐に化かされたような心境になってしまった。 その間に、女二人で会話が始まってしまう。 「あ、高坂の妹ちゃん、今日もご苦労さま」 「こんにちは」 ぺこりとお辞儀をする猫被りモードの桐乃。 ――これはあくまで俺の主観なんだが、この二人はなぜか微妙に仲が悪いように思う。 知らない間柄じゃないんだけどな。 「ねぇねぇ、なんか高坂がさ、門の向こうに『とびっきりの黒髪美少女』がいるって言ってたんだけ ど、知らない?」 「ああ、それはたぶんあたしのことです」 「えっ!?マジで!?」 「はい」 桐乃は質問に淡々と答える。 事実とはいえ、美少女というワードに自分のことだと即答できるのはおまえくらいだぜ。 「でも茶髪にしか見えないんだけど、あたしの目がおかしいのかな?」 「いまは茶髪ですよ。昨日一日黒染め液を使ってたんで、一日限定で黒髪になってたんです」 「あ~なるほど!なっとくなっとく!」 …………そういうオチかよ! 髪なんて染めたことのない俺にはその可能性に気付くことができなかったわけだ。 桐乃は、呆然としている俺の腕を掴み―― 「ぼーっとしてないでさっさと帰るよ」 「お、おう……」 「それじゃあ、失礼します」 桐乃は俺の友人に軽く挨拶をして、腕を強引に引っ張りながら歩き出す。 「あー!こーさかー!なにさ、妹に腕組まれたくらいで真っ赤になっちゃってぇ!そんなに妹が好き なのかよぉ~~~~~~ッ!ばーかばーか!ばかばかばーかっ!」 後ろの方からこんな声が聞こえてきたのだが、 「んべっ」 と、桐乃は俺の友人に見えないように、かわいらしく舌を出していた。 「何怒ってんだよ?」 「なにが?別に怒ってないし~?」 「ふーん……」 なんか隠し事がある気がするんだけど……まぁ、今日のところは別にいいか。 それより少し気になることがある。 「なあ、一日黒染めってやつ昨日風呂上りにわざわざもう一回したの?」 「まあね」 「なんで?」 「……なんだっていーでしょ」 「そっか」 へっ…………健気なやつだぜ。 「それよりあんたさぁ」 「なんだ?」 桐乃は俺の顔を覗き込みながら聞いてきた。 「なんか茶髪に戻したらショック受けてたみたいだけど、黒髪の方がよかった?」 「……別にそういうわけじゃねぇよ。俺は茶髪のおまえも、その、あれだ……」 「茶髪のおまえも――なぁに?」 こいつ……ニヤニヤしやがって。 「か、帰ってから言ってやるよ」 「だめ。いま言って」 自分は帰ってからだったクセに、なんつー理不尽な! 「ほら、はやく言ってよ」 「ああ!わーったよ!」 俺は、やけくそ気味に妹の耳元で囁いた。 「茶髪とか黒髪とか関係ねえ――俺はおまえが好きだ」 「――――――」 あー、くそっ、恥ずかしい!顔から火が出そうだ! 無言で黙っている妹を横目で見ると、 「~~~~~~ッッ!」 耳まで真っ赤になってプルプルしてた。 おまえも恥ずかしいなら道端で言わせるなよ。 このあとは照れ隠しに、「ば、ばかじゃん?くさいんだっつーの!」とでも言われるんだろうと思って いたら、桐乃はもじもじと恥じらいながらこんなことを言ってきた。 「あ、あんたが、どうしてもってゆーんなら、また黒髪にしてあげる……」 そんな妹の姿を見た俺はこう想ったのだ。 茶髪の妹が、こんなに可愛いわけがない――ってな。 ―おしまい― ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/529.html
533 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/06(水) 15 36 16.10 ID 4b60xGlfP [5/9] ちょっと話を切る感じになるが 503を見て電波を受信した 朝のリビング。朝食を終えた俺は携帯で電話をしていた。 「わかった。じゃあ遅刻しないようにしろよ」 『うん、ありがと~。きょうちゃんも遅刻しないようにね?』 「しねえよ。とにかくお大事にな」 『うん』 「んじゃ、切るわ」 『わかった~。じゃあ、学校でね』 「おう」 Pi、と通話終了ボタンを押す。話してる内容で丸わかりだとは思うが、電話の相手は麻奈実だった。 何でも、昨日おばさんが風邪をひいてしまったので朝の準備を丸々麻奈実がしないといけなくなったらしい。 ロックの弁当も作らないといけくなったとかで、いつもの時間に待ち合わせの場所までこられないとのこと。 ギリギリになるだろうから先に行ってて欲しいということだった。 「あいつも大変だな」 「何朝からこんな場所で電話なんかしてんの? ウザイんですケド」 「うるせーよ。どこで誰と電話してよーが俺の勝手だろうが」 「フン。朝から横でデレデレと誰と電話してんだか。…………地味子?」 「デレデレなんてしてねぇ。それと地味子っていうなって何度も言ってんだろうが。しまいには怒るぞ」 「チッ、やっぱりか…………とにかく、電話するならあたしのいないところでしてくんない? ウザイし」 「へいへい。今度から気をつけますよ」 別段、大声でうるさくしてたつもりもないんだが。何でこんなにこの妹は機嫌が悪いんだろうか。 さっきまでは普通だったのに。こいつといい黒猫といい、何で麻奈実をそこまで煙がるのかさっぱりわからん。 「っと、そろそろ出ねぇとな」 麻奈実にああいった手前遅刻なんてしたら間抜けどころの話じゃない。 ソファから立ち上がり、さあ行くかとというところでブルッと突然便意が襲ってきた。 こりゃいかん。大至急トイレに向かわねば! 俺はさっきまで使っていた携帯と、持ってきていた鞄をリビングの机に置いてトイレに駆け込んでいった。 「フン、キモ……あ、そうだ。いいこと考えた♪ そうと決まれば早速……」 そんな不穏な台詞を吐く桐乃に気付かないまま。 「よーっす高坂」 「おっす赤城」 学校に着くなり赤城が声を掛けてくる。珍しいこともあるもんだな。 「田村さんはどうした?」 「ああ、あいつならな……」 朝から俺に話しかけてきたのはそういう理由か。 こいつもよくわからん奴だ。シスコンなのは相変わらずなのに、麻奈実のことになると妙に食いついてくる。 もしかしてこいつ麻奈実を狙ってんのか? と疑いはするが確証はない。 そんなのは俺が許さんし、その時は全力で邪魔するつもりだが。 朝した電話の事情をそのまま赤城にも話してやる。 「なるほど。田村さんも大変だ。早く治るといいな」 「まったくだ」 でもまあ、こうやって気を回してくれるのは素直に嬉しいことだ。 「ん? 高坂それは……」 「どうしt」 赤城が何かに気付いたように目を向け、なんだろうと思った瞬間 ガッ! と両肩を掴まれた。 お、おいおいおい、一体何のつもりだこいつは? 「そうかそうか。高坂、とうとうお前も自分がシスコンだと認める気になったか!!」 「はあ!?」 こいつは一体なにを言い出すんだ? 断じて俺はシスコンなんかじゃないぞ。 確かに妹の趣味を護るために体張ったり、妹の友達に嫌われても嘘ついたり、アメリカに行った妹を 迎えにアメリカまで行ったりもしたが、それはちょっと妹が心配になっただけであって決してシスコンだからなんかじゃない。 もう一度言おう。俺はシスコンじゃねえ! 「お前はいきなりなにを言い出すんだ! なにを根拠にそんなことをいう!?」 「いやだって、それ」 「それ?」 「きょうちゃんおはよ~」 赤城が何かを指差してそれを見ようと思ったところで隣からのんびりとした声がかけられる。 麻奈実だ。 「おお、田村さんおはよう」 「うん。おはよう赤城くん。きょうちゃんもおはよう」 「おう。おはよう麻奈実」 「あれ? きょうちゃんそれどうしたの?」 「それ?」 「携帯のすとらっぷ。それ、桐乃ちゃん、だよね?」 「はあ?」 先に言っておくと、俺は携帯をポケットに突っ込むときストラップを外に出すようにしてしまうことが多い。 所謂癖ってやつだ。そして今回もそれからは外れなかったらしく、ストラップがポケットから出ていたようだ。 麻奈実がいう言葉の意味がわからず、言われるままに自分のポケットから出ているストラップを見て俺は固まった。 そこには、桐乃の姿をしたストラップの姿が!! デフォルメされているがそれは確かに桐乃で、制服姿の桐乃がちょこんと可愛らしく座っている形をしていた。 少しだけムスッとした顔で。 「そうなんだよ田村さん! こいつようやく自分がシスコンだって認めたみたいでさあ」 「お前は何を麻奈実に吹き込んでんだ!?」 こいつは人に言われたことをすぐにマジにしちまうんだぞ? そんなやつに誤解を招くようなこと言ってんじゃねえ! 「いい加減認めろよ高坂。何も恥ずかしいことじゃないだろ。 胸を張れ。俺はシスコンだと! 妹は天使だと! あ、でも天使具合では俺の瀬菜ちゃんのほうが上だからな?」 「ああもういい加減にしろ! だから何でそうなるんだ!? それと誰もそんなこと聞いてねえよ!!」 「だからそれ」 「ああ!?」 指差されたほうを見てみれば、そこにはさっきと同じ、桐乃のストラップが鞄に持つけられていた。 しかも上手いこと目立たないように。 その桐乃はさっきの携帯につけられていた桐乃と似ていて、ポーズはさっきとほとんど変わらないが格好が違った。 この格好は初めて桐乃がオフカイ行った時の奴だ。こっちの桐乃はムスッとした顔ではなく、あどけない笑顔をしている。 お、俺はこんなものをぶら下げたまま学校まで来たってのか!? 妹の造詣をかたどったストラップをつけて学校に登校する兄。はい、間違いなく変態ですありがとうございました。 ――じゃねえよ!! 何でこんなもんがついてんだ!? 昨日まで、いや、朝麻奈実と電話してる時まではこんなものついてなかったはずだ。 それによく見ればこれは見覚えがある。これは確か…… 『うわ~可愛いじゃん! どうしたのこれ!?』 『ふっふっふ、実は拙者の知り合いにこういうのが得意なお方がおられましてな。 片手間に作ってもらったのですよ。この場にはありませんが、黒猫氏のも作ってもらってありますぞ』 『へえ~。アンタ人脈広いのね。片手間ににしてはよく出来てるわね』 『そうでしょうそうでしょう。で、きりりん氏。受け取っていただけますかな?』 『いいけど、これただで貰っちゃっていいわけ?』 『何、かまいません。これも拙者ときりりん氏の友情の証でござる!』 『な、何恥ずかしいこといってんのよアンタ……。ま、いいわ。そこまで言うなら貰ってあげるわよ』 『そうでござるか! 気に入ってもらって何よりでござる!』 そう、この前沙織が家に来て桐乃に渡していたアレだ。 だとしたらこれをつけたのは桐乃か!? 何でこんなことをしてくれやがるんだうちの妹は!? 「きょうちゃん、桐乃ちゃんと仲良しさんになれたんだね~」 「さあ高坂。一緒に妹の素晴らしさを語ろうぜ! 勿論俺の瀬菜ちゃんが一番だけどな!」 ああくそ! ああもう、ああもう ああもう!! なんでこんなことに――! とにかく何か叫ばないとやってられねえ この――― 「もう勘弁してくれーーーーー!!」 「フン! バーーーーーーカじゃん!!」 END
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/676.html
628 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/05/11(水) 20 11 45.71 ID gvCZmZBDP 勢いって言うのは、時に人をとんでもない境地へと連れて行ってしまうことがある。 その場の空気、流れ、状況。そのほかにも色々と絡む要素はあるが、総じて言えるのは深く考えずに行動しているということだろう。 だからこそ、その時どれだけ自分がバカなことをしているか気付かないし、後で後悔することも多いのだ。――今の俺のように。 何で俺がこんなことを考えているかといえば、その原因は目の前に鎮座する携帯にあった。 何の変哲も内容に見えるこの携帯。だが、これは今や恐ろしいまでの兵器へと姿を変えていた。 クルッとその携帯を裏返す。そこに張られているのは……2ショットプリクラハートフレーム仕様。 まるで恋人同士の様にとられているそれは、妹――桐乃と撮ったものだ。 携帯を持ち替えて、カパッと携帯を開く。 そこに写る待ち受けには、先ほどのプリクラに写っている人物。桐乃の水着写真がデーンと写し出されている。 更にそこから操作。メニュー画面を開く。そしてそこでも姿を現す桐乃の姿。 諸君は着せ替え携帯というものをご存知だろうか。待ち受けだけではなく、メニューの先々にもそういった絵を組み込むことができるようになるあれだ。 ――つまりはそういうことなのである。 今やこの携帯は、完全に、桐乃一色に染められているのである。 しかも、電話の着信音は「ちょっと~、早く出なさいよ。まったく、ノロマなんだから」 そしてメールの着信は「キタキタキタキター!ほら、手紙がきたわよ!」 (全て桐乃の生音声) という徹底ぶりである。 正直、自分でも何故ここまでやってしまったのか疑問に尽きる しかも、それで手に負えないのは……この携帯を自分でもまんざらでもないと思っているところだ。 確かに、確かにだ。あの夏休みにあった出来事以降、自分がシスコンだというのは自他共に認めることとなった。 だがしかし、流石にこれはそういうのとは何か違うのではないか。 自分の携帯を妹一色に染めて、それを見て笑う兄貴……どう見ても変態である。どうしてこうなった。 一応、ではあるが、桐乃の携帯も現在、俺一色に染まっていることであろう。 何せこの設定、お互いがその場でいるときにやったものなのだから。 携帯にプリクラを張って、待ち受けをお互いの写真にした。 ここまではまだよかったのだ。その程度なら、仲のいい兄妹なら誰でもやっていることだろう。 問題はその後だ。 桐乃が沙織に頼んで、俺の着せ替えメニューを作って見せびらかしたてき。どうだ、これでもっと恥ずかしいだろうと。 そんなことをされれば俺もやり返さないと気がすまない。 当然その晩に沙織に頼んで同じようなものを作ってもらうよう頼んだのだった。 そうしてみせた時の桐乃の真っ赤に染まった怒りの顔がいまだに忘れられない。 何で怒り顔まであんなに可愛いんだあいつ。……ん?俺前までこんな風に思ってったっけ?……まあいいか。 そしたら今度は桐乃が「今からあんたの声を録音するからこのマイクに向かってこれをしゃべって」と言ってきた。 何に使うかと聞いてみれば着信音に使うと言い出したのだ。 お前、そこまで俺に恥を欠かせないと気がすまないのかと。 もちろん、そんなものに素直に俺が協力するわけがない。 交換条件として桐乃の音声も撮ることにしたのである。俺専用に。 そんな感じであれよあれよという間に出来上がったのがこの携帯というわけだ。 今思い返してみれば、なんともお互いにバカだったと思う。 これ恥ずかしいの使ってる自分じゃん!と気がついたのが、携帯を麻奈実に指摘されてからだというのが実に終わっている。 はてさてどうしたものか。設定を変えてしまうのは簡単だがどうも後ろ髪を引かれる気分になるのは何故だろう。 そこまでこの携帯が気に入ってしまったのか、俺は。 そのまま悩むこと10秒。出た結論は……「まあいいか」。 これを学校に持っていったところで見られなければいいだけの話だ。 使ってるのを指摘されたところで、今や地の底まで落ちている学校での評判に傷がつくなんてこともあるまい。 せいぜいシスコンの名がそこに追加されるだけだろう。今更である。 この携帯を桐乃の目の前で使うことであいつの可愛い顔を見れることに比べればなんてことはない。 そう結論を出した俺はばふっとベッドに寝転がる。 時間を見てみればもうじき日付が変わる時間だ。寝るとしよう。 携帯アラームをセットして目をつむる。ちなみにアラームも桐乃声だったりするのだが……それの紹介はここで省こう。 どうせ朝になれば聞けるのだから。 それを楽しみにしながら、俺は眠りに落ちた。 そして…… 「ほら、起きろ京介!。起きないと遅刻するよ!」 桐乃の生声で起こされて、ひどく狼狽したのは翌日の朝のことであった。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1033.html
469 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 12 00 12.29 ID NVVBV/940 [4/14] ヤフオクににいてんごのフルセットが出てるな。 ttp //page11.auctions.yahoo.co.jp/jp/auction/n103167668 私服桐乃はパケに出てるからシクレじゃないみたい。 強気あやせとメルルの2種類目(加奈子かアニメ版の服装?)がシクレだったみたいだね。 470 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 12 03 41.70 ID sDyRImD1P [9/18] 京介はなしだったか・・・ 471 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 12 16 00.10 ID Y9VtPG4f0 [2/2] 京介ないのかよ… 472 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 12 23 23.66 ID NY0U5QY60 [1/17] 京介とチュッチュができないのか 473 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 12 25 34.06 ID 2NeRpIkb0 [1/2] 俺京介もフィギュア出たら桐乃とイチャイチャさせるんだ・・・ アアー!京桐最高! 475 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 12 35 08.95 ID gC2mlhNOO ではお兄さんの代わりに私と桐乃をいちゃいちゃさせましょう 486 名前:【SS】あやせたんに捧げるSS[sage] 投稿日:2011/08/19(金) 14 19 20.67 ID 0J9OSSmF0 [3/3] 475 こんな感じでいいですか?あやせたん 「ねえ、あやせ・・・相談が、あるんだけど・・・」 学校からの帰り道、桐乃に、わたしはそう言われました。 桐乃、そんなに顔を真っ赤にするなんて・・・わたし、期待してもいいのかな? 「うん、わたしは桐乃の親友だもの。ね、教えて?」 「う、うん」 わたしが先を促すと、桐乃はさっきよりも恥ずかしがってしまいました。 桐乃、ほんとに可愛いよ・・・わたし、桐乃のためならなんだって・・・ 「あ、あのさ。あ、あやせだったら、さ・・・ 法律とか、絶対に結ばれないって分かってる相手を好きになっちゃったら・・・」 「無理矢理でも結ばれればいいと思うっ!」 つい、大声を出してしまいましたけど、やっぱり、そうなんだよね! 女同士で結婚とかできないけど、でもっ・・・! 「桐乃、難しく考えちゃダメだよっ! 好きあってる二人なら、結婚とか、そんなことが出来なくたって、一生二人で愛し合って行けばいいんだよっ!」 「そっ、そっか・・・そうだよねっ!」 桐乃の顔が明るく輝いて、本当に嬉しそう。 わたしの事を、そんなにも好きになっててくれたんだ♪ 桐乃との二人だけの時間・・・想像するだけで、わたし、息が苦しくなっちゃう・・・ 「そ、そいつさ、いつもあたしの隣に居るんだけど、 あたしもそいつのこと助けてあげたし、そいつもあたしのこと助けてくれるし・・・」 やだなー、桐乃ったら、わたしの前だと恥ずかしがっちゃって。 『そいつ』なんて言わなくても分かってるよ。わたしの事なんでしょ? 「そいつの近くに居ると、胸がきゅっと苦しくなっちゃって、顔をまっすぐ見るのもくるしくなっちゃって・・・」 うん、今の桐乃を見てると分かるよ。わたしの方を全然見れないでいるもんね♪ほんと可愛いよぉ~♪ 「あ、あたしっ、どうしたらいいと思う?ねえ、あやせ・・・」 わたしは、自信を持って、わたしの気持ちを全部、桐乃に伝えました。 「桐乃、『そいつ』に絶対・・・それもすぐに告白したほうがいいよ♪ 『そいつ』だって、絶対桐乃の事が大好きだし、いつまで待っててくれるかわからないでしょ?」 ほんとうは、いつまでだって待ってるよ、桐乃。 でも、こういうことって、早いほうが良いと思うんだ。 だって、桐乃って本当に可愛くって、綺麗で、お姫様みたいなんだもん! だから、他の人に目を付けられる前に、わたしのものにしたいの・・・ 「わ、わかった。ありがとう、あやせ。あたし、勇気をだして告白するっ!」 ほ、本当!? 「今日は、あとちょっとだけ、最後の心の整理をつけるから。明日、必ず!」 「うんっ!思ってすぐに行動なんて、やっぱり、わたしの桐乃だねっ♪」 「ありがとう、あやせ。相談にのってくれて・・・やっと、決心できそうだから・・・」 「ううん、そんなことないよ、桐乃。それじゃあ、また、明日ね?」 「う、うん?」 また、明日・・・また明日っ・・・!その明日、わたしと桐乃の関係が大きく変わるっ♪ わたしは、嬉しくって嬉しくって、家に帰って、早速『明日』の準備を始めました。 そして、今、その『明日』の夜7時過ぎ。 桐乃にしては遅いんだけど、やっぱり、最後の決断って難しいよね。女同士って、世間体だって難しいし・・・ それでも、桐乃がこんな遅い時間を選んでくれたのは、わたし、とっても嬉しいです。 さっきから何度もシャワーをして、桐乃に見られても良いようにしてるんだもん・・・ 桐乃がわたしの彼女・・・彼氏?になって初めての日に、一夜を共にできるなんて・・・♪ 時計を見ると、後4時間とちょっと。 『門限』とかいう変な言葉がわたしの頭の中にこびり付いているのが気になりますけど・・・ 待ってるからね・・・桐乃♪ End. ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/232.html
276 名前:【SS】【1巻4章 桐乃視点1/2】[sage] 投稿日:2011/01/25(火) 08 34 36 ID CnI26fZr0 [1/2] お父さんに私の趣味がバレた。もう最悪、そう京介に見つかった時とは全然違う絶望感。 「化粧品だの、派手な服だの、バックだのには文句は言わん、お前が稼いで買ったものだからな、だが、これは別だ。おまえがくだらん 趣味にうつつを抜かしているのならダメになる前に道を正してやらねばならん。」 京介との体験があったせいで、ほんの少しだけ期待してしまった答えとは真逆の言葉をお父さんから浴びせられた。 京介は認めてくれた、馬鹿にしないって誓ってくれたのに…。 なのにっ、何でっ、お父さんは分ってくれないのっ!! それで、何も反論できずに家を飛び出したあたしは、汗だくになった京介に見つかって、懇願するもんだから、しょーがなく帰路につい たワケ。 「桐乃、俺に任せろ!」 あんなセリフを吐いていたけどサ、マジ切れのお父さんに超ビビッて「すいまえんでした」なんて撤退してきたらマジぶっ殺しよ! でも、大丈夫、きっと上手くいく、あの時の京介は私の『兄貴』だったから。京介は最低の屑でも、『兄貴』は妹にとって絶対の守護者 ッて、何考えてんのよ、あたしは! 今、思い浮かべたエロゲーのテンプレの超かっこいい『兄貴』であって、京介とは全然関係ないから!! そんな非常にウザい事を考えて悶々としていたら、いつの間にか自宅前に着いていたワケ。 「………。」 恐る恐る玄関の扉を開けて、あたしは音を立てないように忍び足で自室を目指した。 あっ、リビングが騒がしい。まさか本当に!? 「超大好きだ、愛しているといってもいいね。こいつを捨てられたら俺は俺じゃ無くなっちまうんだよ。エロゲーは俺の魂なんだよ、分 かったかぁぁぁぁぁぁーーー!」 バチコーン、ドッカーン、ガッシャーン、そんな効果音が扉越しに聞こえたきがした。 「俺はもう知らん!」 続けてお父さんの怒鳴る声と、地響きがする位に強く床を踏みつける音。 その音が近づいてきたらか、あたしは慌てて玄関まで戻り身をひそめた。 ガチャーンと乱暴にリビングの扉が開いて、その後、別の場所から同じように乱暴に扉を開閉する音が聞こえた。 277 名前:【SS】【1巻4章 桐乃視点2/2】[sage] 投稿日:2011/01/25(火) 08 38 45 ID CnI26fZr0 [2/2] その後、恐る恐るリビングに入ると、無様に仰向けに倒れ鼻血を出して完全に意識を失っている京介がいた。 あたしの大切なものを守るために、こんな姿になっちゃたワケ? 信じらんない、何でそこまでやれんの?まるでサ、あ…。 「あらあら、ずいぶん派手にやったみたいね」 「お母さん!?」 突然の声にびっくりして振り返ると、お母さんがいて、手に持つ買い物袋にはお酒とツマミらしきものが入っていた。 「買い物に行ってたんだ?」 「ええ、荒れると思ってね」 「桐乃、ちょっと手伝って」 あたしとお母さんで腕を片方ずつ掴んで、リビングのソファーまで京介を引き摺って何とか寝かせる。 このまま、自室に戻るのも気が引けたから、仕方なくお母さん主導でコイツの介抱をしてやった。 本当は気持ち悪くて触りたくもないんだケド、今回だけは特別。 感謝しなさい、超カワユイこのあたしが治療してやってるんだからサ。 「お母さん、お願い、兄貴の介抱はお母さんだけがしたことにして。」 「はいはい、あんたは本当にお父さんにそっくりね。」 「ちょ、それって…。」 「それじゃ、もうあんたは寝なさい。母さんは、これからもう一人の負傷者を介抱しにいくから。」 お母さんがあたしの返答を遮り、リビングを出た。 あたしのせいで…、てか私のせいじゃないよね!アイツが勝手に暴走して自爆しただけじゃん!! でもさ、あたし、キッカケは、さ…。 ウザ、何でこいつの為に後ろめたい気持ちになってんの。 別にイイじゃん。ずっとあたしを無視してきた報いじゃん、 …ちょ!だから違う、全然違う、それとこれとは全く!! 「あ“あ“あ“、ウザ、キモッ、もうエロゲして寝よ。」 あたしは自分のなかに渦巻く、とても気持ち悪くて、懐かしくて、辛いものが出てくるのを必死で抑えながら、 そう自分に無理やり言い聞かせて3時過ぎにようやく眠れた。 「おっ…、おう。」 翌朝、あんまり眠れずに不機嫌だった私は一睨みしてやった。 アンタのせいであたしは超寝不足なんですケド。 「…。」 キモッ、アイツ、私の態度が全く変わってなくて挙動不審になってる。 まさか、『お兄ちゃん、大好き』なんてエロゲのテンプレ妹になるとでも思ってんの? ホント、バカ、マジ変態!! たった1回私を助けただけで、今までのアンタの罪が解消されると思ってんの? まぁ、でもね、アイツへ初めに伝える言葉は決まってるんだけどサ。 でも、今はダメ、お父さんとお母さんがいるし、それに少しくらい焦らしてやんないと。 そうだ、今日は部活を早く切り上げよう。 仕事もないし、アイツより早く家に帰って待っていてやろうカナ。 END -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/121.html
323 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/03(月) 11 57 34 ID 2gcxWSsq0 きりりんと京介が突き合うのでも妄想するか 325 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/01/03(月) 12 32 17 ID cEPexMTZ0 [2/6] 323 桐乃「あんたと突き合うとかキモ」 京介「しょうがねえだろ、餅つきなんだから。一人でできるかよ」 桐乃「チッ…仕方ない。ほら、あたしがこねるから、あんたしっかり突いてよね」 京介「おう任せとけ」 桐乃「はい」 京介「よっ」 桐乃「はい」 京介「よっ」 桐乃「へー、結構サマになってるじゃん」 京介「そういうお前も手際いいよな」 桐乃「まあね。ところで次あたしも突いてみたいんだケド?」 京介「お前が?これって結構力が要るぞ」 桐乃「大丈夫だって。…じゃあ行くよ」 京介「おっし。いいぞ」 桐乃「ぬ」 京介「はい」 桐乃「ぬぬ」 京介「次!」 桐乃「ぬぬぬっ」 会長「お、高坂さんとこの兄妹かい?いやあ、息ぴったりでまるで恋人みたいだねえ」 桐乃「!?」 京介「うおおおっ!?バカ、いきなり軌道をずらすな!」 桐乃「ううう、うっさい!」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/505.html
70 :【SS】:2011/04/01(金) 14 09 31.07 ID wPd3dMpq0 春休みのとある一日、俺は朝早く目を覚ます。 以前から考えていたとある計画を実行する為に―― 「おはよう」 「あら、早かったわね」 「そんなに珍しいかよ、桐乃だってもう起きてるじゃんか」 「あたしは部活があるから。それよりあんたが早起きするなんて雨が降ったらどうしてくれんのよ」 「それは俺も困るな」 「なんで?」 「昼から出かけるつもりなんだよ。それで桐乃、お前にちょっと付き合って欲しいんだけど…」 「ええ~めんどくさ!!何であたしがわざわざあんたに付き合ってやらないといけないわけ?」 「そこを何とか頼むよ」 「……仕方ないなぁ」 案外、あっさりOKしてくれたな。これで第一段階クリアだ。 ―――――――――――――――――――――――――――――― そして昼頃――、俺は桐乃の学校の校門前にあいつを迎えに来ていた。 向こう側から歩いてくる集団の中でひときわ目立つ美少女―― 改めて見ると美人だな…なんだか気恥ずかしくなってきた。 だがここで気後れしていたら今日の計画は上手くいかない。意を決して話しかける。 「よっ!お疲れ!」 「え?ちょっとなんであんたがここにいるの!?」 「お前に早く会いたかったからに決まってるだろ?」 「んなっ―!?」 おうおう、顔を真っ赤にして動揺しておるわ。 いいかげんこいつ相手にペースを掴む方法もわかってきた。 ようするにこいつは想定外の事態にめっぽう弱いのだ。 「悪いな、今日は午後からデートの予定なんだ。もうこいつ借りていって良いかな?」 キャーキャー騒いでいる部活仲間と思われる女子集団に一言断りを入れて桐乃の手を引いていく― 「ちょ、ちょっとちょっと!どういうつもりなのよ!もう!!」 「何がだよ、約束してただろ?今日の午後は俺に付き合うって」 「だからってみんなに変な誤解されたらどうすんのよ!?」 「別にいいだろ。それより飯食いに行こうぜ、話はそれからだ」 ―――――――――――――――――――――――――――――― ちょっと小洒落た個人経営の小さな喫茶店。美味しいランチがけっこう評判。 実は桐乃がこの店に来たがっていた事はリサーチ済みだ。 あやせ発~麻奈実経由~京介行きの情報。まだ来たことは無いという情報も入手済み。 「あんたもけっこう気が利いてるじゃん!」 「へっ、本気を出せばこんなもんだ」 上機嫌でサーモンマリネのサンドウィッチを食べる桐乃。出だしは上々ってところか。 「んで、あんたは今日どこに行くつもりだったの?」 「ん~?まぁ色々だ。つってもお前もその格好じゃちょっとアレだな。まずは服買いに行くか」 「制服じゃマズイって、あんた変なところに連れて行く気じゃないでしょうね?」 「………そう思うならこのまま帰っても良いぜ?」 いつもの俺なら「んなワケねーだろ!」と力いっぱい否定するところだが今日は違う。 どれだけ桐乃に冷静さを失わせることが出来るか、それが第二段階だ。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 「これも似合いそうだな」 「もういいかげんに着せ替え人形みたいにするのやめない?こっちが恥ずかしいんですけど」 「そう言うなって。今日付き合ってもらうお礼も兼ねてるんだからさ」 「むう~」 「一着くらいプレゼントさせろよ、どれを買うかは桐乃が決めていいからさ」 「ありがとうございましたー」 今まで来ていた制服はお店から貰った袋に入れることにして、 そのまま着て行きますと伝え、買った服に着替えた桐乃と店を出る。 「似合ってるぜ」 「うっさい、読モなめんな!」 テレながらボスボスと小突いてきやがるが、今日の俺はまだまだ押すぜ。 「なあ知ってたか?」 「何を?」 「男が女に服を贈るのは着せたいからじゃなく脱がせたいかららしいぜ?」 「――――――――っっ!!!!」 顔を真っ赤にして口をパクパクさせてやがる。お前は鯉かっての。 「バカッ!変態っ!もうサイアク!!」 「イテテ、やめろって!そんな怒るな、せっかくの可愛い顔が台無しだぞ?」 おいおい、どこまで赤くなるんだこいつの顔は。 やべぇ、なんか物凄く楽しくなってきた―― ―――――――――――――――――――――――――――――― 「ほら、ご注文のミルクティ」 「ん、アリガト」 もう日が沈もうかという時間だ、今日一日さんざ遊び倒して今は近所の公園―― 「今日のデートは楽しかったか?」 「―――――」 しゃがみ込んで膝の隙間に埋めるようにして顔を隠す。 今日は思いつく限りのデートプランを実行して、その度に桐乃に揺さぶりをかけてきた。 「楽しくなかったのか?今日のデート」 もう一度顔を覗き込むようにして尋ねてみる。 「……………やっぱり今日のコレってデート?」 「デートじゃなきゃなんだと言うんだ」 「―――もう。なんか今日のあんた変だよ」 「素直になっただけさ―――自分の気持ちに」 桐乃の顔が耳どころか首筋まで赤く見えるのは夕焼けのせいだけではない。 よーし、この調子なら第二段階の出来は最高と言っていいだろう。 こいつの今の様子なら今日の日付なんて完全に頭から消えているはずだ。 「自分の気持ちに素直になったってさ、どういう意味なの?」 ひとしきりの沈黙の後、意を決したように聞いてきた。 答えにくい質問に対して質問で切り返すのは常套手段だ、ゆえにこの展開も想定内。 「そうだなぁ……、俺からも聞くが何で俺ってお前の為に色々してやれるんだろうな?」 「…………意味わかんない」 「お前の趣味が親父にばれた時もそうだし、オタク友達を作る時もそうだったし―― お前があやせと喧嘩した時も色々奔走してたよな…」 「……うん、感謝してる」 「はは、お前の人生相談は大変だったけど楽しかったんだぜ。何でだと思う?」 「………」 「お前と一緒に何かすることが楽しかったし、お前のために何か出来る事が嬉しかったんだ」 「………」 「なぁ、何でだと思う?」 普段なら通じないようなもったいぶった演技じみた言い回し―― だが今のこいつになら逆に絶大な効果を発揮できるだろう。 「お前が……好きだからだよ……」 ・・・・・決まった!!最高の出来じゃねーかこれ!? 見ろよこの桐乃の様子!完璧に呆けてやがる!! 普段だと『シスコン!キモ!』とか言われるような場面だが、 今日一日かけて積み上げたフラグは飾りじゃねえ! いつも散々からかわれてばっかりだからな! 今日こそ逆にあたふたさせてやることに成功したぜ! 「なぁ、返事を聞かせてくれないか?」 めいいっぱいのイケメンボイスとまじめな表情を意識しながら桐乃に語りかける。 そう簡単にネタばらししてたまるかよ。せめて今日一日はからかい続けてやる! こみ上げてくる笑いを必死で抑えながらそんなことを考えていたら 急に俺の上半身が桐乃に引き寄せられた――――― 「!!!???」 この唇に感じる暖かく柔らかい感触はなんだ!? 離れようと思っても桐乃の両手が俺の頭を抱きかかえるように押さえ込んでいて抜けられない。 それどころか俺の口をこじ開けるようにして柔らかいモノが入ってきた。 ――んっ――ちゅっ――ちゅぷ―― どちらの口から洩れている音なのか判断がつかない。 だって俺たちの口は今重なっているから―― 脳髄が痺れる様な感覚に襲われていると、やがて桐乃がそっと手の力を緩め顔を離す。 何がなんだかわからず思考停止している俺に満面の笑みを浮かべて桐乃が言う―― 「これが……あたしからの返事だよ」 なぁ一体何が起こったんだ? あ、ありのまま今起こった事を話すぜ。 俺は妹をからかおうと冗談で告白したら妹からキスされた。 挨拶代わりだとか、触れるだけのような軽いものとも違う。 もっとディープなキスの感触を味わったぜ。 「ねえ、なに呆けてるの?」 「あ、ああ…」 「あはっ♪ひょっとしてOKしてもらえると思ってなかった?」 今まで見たこともないような可愛らしい顔で笑いかけてくる。 つーか俺のファーストキス……相手は桐乃ってことになるのか!? 別に乙女ってワケじゃないけどさぁ!! 冗談で告白した妹に奪われるって!しかも濃厚なディープキスって!! 「あのね、あたしもずっと言えなかったんだけどサ、あたしね、あたしもね、 ずっと前から兄貴のこと好きだったんだよ?」 照れるように俺の周りをくるくると歩き回りながら言ってくる。 「あたしね!自信なかったから!その……兄貴には嫌われてるってばっかり思ってたから! 変にキツイことばっかり言っちゃってたっていうか、嫌い返してやろうとか……」 いま俺の頭に浮かぶのは“お前は何を言っているんだ?”のAAだ 「でもね!やっぱり好きだったから!何か兄貴と接点が欲しくて無茶なお願いしたりとか…」 もしくは審議を放棄して踊りだしてる審議中… 「ごめんね、でも嬉しい……これからはあたしももっと素直になるね」 ……まて、これは何かの罠じゃないのか? 俺の知っている桐乃はこんな可愛い生き物じゃねぇ、これは桐乃の皮をかぶった何かだ! もしかすると俺が仕掛けてきたドッキリをそのまま返されてるんじゃないのか? 「なぁ、ちょ、ちょっと待ってくれ!ひょっとして気付いていたのか?」 「なんのこと?」 「今日、4月1日………」 どこまでも続くかのような沈黙の後、思いっっっっきり力のこもったビンタをされた― 「あ、当たり前じゃん!?あたしが気付いてなかったとでも思ってるわけ!? 冗談でしょ!!あんたのバレバレの嘘に乗ってやっただけだからね!!? これ以上変な勘違いしたら承知しないから――!!――!!――!!」 口が痛い、頬が痛い、上手く噛めない。お陰で晩御飯が美味しくない。 「京介、そのほっぺたどうしたの?」 「桐乃にビンタされた」 「フンッ!!あんたが性質の悪い冗談言うからでしょ!?」 「あんまり妹をからかっちゃダメよ」 「…ふぁい」 やっぱり桐乃に対して優位に立とうなんて無駄な努力なのか? あ~あ、もうすぐ日付も変わる。一ヶ月以上前から計画を立てていたのに散々な出来だった。 途中までは上手くいってると思ったんだが、どこで気付かれたんだろう…… 思案にふけってるとノックが聞こえてきた、珍しい。入ってきたのは当の桐乃だ。 「あのさ、あたしの返事って嘘じゃなかったんだからね、それだけ言いに来たの!」 どういうこと?嘘じゃない?それともこれが嘘なのか? 時計を見ると12時ちょうど 俺はやはりこの妹には一生敵わないみたいだ――――― 181 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/02(土) 23 08 17.03 ID ACWnvVXZ0 [5/5] オリジナルサイズ